カレッジマネジメント227号
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29リクルート カレッジマネジメント227 / Mar. - Apr. 2021夫を行っていたことも示されている。例えば、遠隔授業を担当した教員のうち、47.4%が「概ね毎回課題を出し、提出を求める」ことが「以前より増えた」としており、課題の学生へのフィードバックにおいても、44.0%が「採点し、個別にコメントや採点したファイルを返した」ことが「以前より増えた」と回答していた。また、多くの教員が遠隔授業でもディスカッションやアクティブラーニングを試みていた(例えば、「Zoom等を使った、全体での同時双方向のディスカッション」は66.7%が実施している)。大学教育の現場において各教員は、遠隔授業に対応した授業スタイルへ転換し、より良い授業づくりのための教育関連業務に時間を費やしたのである(ただし、遠隔授業において授業による精粗があることは、巷間広く指摘されている通りである)。このような遠隔授業について、教員は、多くの学生は遠隔授業においても意欲的に授業に取り組んでいると評価していた。図5は、教員からみた学生の取り組み状況を尋ねた結果を示したものである。「授業や課題の取り組み状況」については、4割が学生の取り組み状況は「以前より良くなった」としている。一方で、「学習成果の変化」については、「変化なし」「一概に言えない」「以前より良くなった」が拮抗していた。ここで示されている遠隔授業における学り、教育研究を持続的に両立するための体制整備が大学運営に求められる段階にある。授業運営サポートスタッフの配置等を含めた授業担当者の授業運営上の負担軽減、カリキュラム・授業科目の見直しなどカリキュラムマネジメントを通じた教育改革など、大学教育のあり方そのものが再検討される時期に差し掛かっていると言える。遠隔授業の学習成果をどのように把握し、高めていくかについても個々の教員の努力を超えた組織的な対応が必要であろう。組織的な対応に基づいた大学教育の改善は、これまで幾度となく指摘されてきたが、コロナ禍は改めてそのことを可視化したと言える。組織として持続的な教育研究を可能とする教育支援を含め、大学教育を向上させていくことが求められる。習成果の評価の難しさが、遠隔授業のなかで表出した課題の一つと言える。ここまで、2020年度前半の各大学の学生支援の状況と大学教育への影響について、2つの調査結果を中心に紹介してきた。これらの結果から、2021年度以降に向けた示唆を考えてみたい。まずは、長期化するコロナ禍のなかで、学生支援の拡充が継続的に求められることである。2021年度の新入生を含め、支援を必要とする学生が必要な支援を受けられる常時的な学生支援の体制・運用が必要であり、他大学の取り組み事例等を参照した支援策の充実が期待される。コロナ禍に対する学生支援の充実は学生の安心や満足度の向上に寄与するだろう。そのために各種の大学団体、学協会等、本誌を含む業界専門誌による効果的な事例紹介も重要であろう。さらに、大学教育への影響からは、教員の教育業務負担の増大に対応し、持続可能な教育研究を維持していくための組織的な取り組みが必要になっている。我が国の大学では、個々の授業の運営は担当教員に委ねられることが一般的である。しかし、遠隔授業、対面授業の両面においてコロナ禍に対応するために授業運営の負担は増加してお特集 ニューノーマルの学生支援図5 教員からみた学生の遠隔授業の取り組み状況 (n=241)(1)文部科学省高等教育局・総合政策局「新型コロナウイルス感染症に係る影響を受けた学生等に対する追加を含む経済的な支援及び学びの継続への取組に関する留意点について(依頼)」(令和2年12月18日)(2)私学高等教育研究所では、「新型コロナウイルス感染症に伴う大学経営管理上の対応に関する調査」として、日本私立大学協会に加盟する私立大学(409校)を対象に、コロナ禍への対応状況についてアンケート調査を行った(回答数309校、回収率75.6%、回答期間7月22日-8月19日)。この調査結果は、『コロナ禍の私立大学』(2020年11月)として示されている。本稿の内容は、この調査データの著者の分析結果を再構成したものである。(3)一般社団法人大学教育学会(会長:山田礼子(同志社大学))は、大学教育を研究対象とする学術団体として、今回のコロナ禍において日本の大学教育がどのように対応し、どのような課題があるかを示すことを目的に、会員を対象とする新型コロナウイルス感染症に伴う大学教育の対応状況についてアンケート調査を実施した(実施期間:2020年9月30日〜10月19日、回答数312件、回答率24.7%)。同学会の許可を得て、紹介している。(4)東京大学大学経営・政策研究センター「大学教育の現状と将来―全国大学教員調査」(2019年11月)0102030405060708090100(%)コロナ禍以前と比べたときの学生の授業や課題の取り組み状況の変化コロナ禍以前と比べたときの学生の学習成果の変化変化なし以前より良くなった無回答悪くなった一概に言えないわからない2021年度以降に向けた示唆

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