8リクルート カレッジマネジメント227 / Mar. - Apr. 2021イデンティティや価値観を確立すること、社会に出るために必要な力を身につけ自立すること等の心理社会的な発達を遂げる。特に、予測困難な時代を生きるこれからの学生達にとっては、特定の限られた経験のみならず、多様な経験に身を投じ、十分な力を蓄える必要がある。そうした多様な経験には、自主的なゼミや研究会、部活やサークル、留学やインターンシップ、アルバイト、学内外でのボランティア、友人関係や恋愛関係、趣味等が含まれる。近年では、学生が学校の外で自主的に選択・傾倒する活動(正課外活動)以外に、学内の教職員が一定の戦略・意図を持って設計・運用する活動(準正課教育)も広がっており、学生の学びと成長に大きく寄与している。学生達は、キャンパスという空間、大学生活という時間の中で、優先順位を付けながらこれらの活動に傾倒する。学生の学びや成長はこれらの相互作用によって遂げられる。一見関係なさそうな活動が学びへの意欲を加速させたり、試しに関わってみた活動で大きく成長したりと、非線形的で様々な要素が複雑に絡み合っている。学びは授業の中だけで完結するものではない。キャンパスという空間、大学生活という時間は、このように学生の学びと成長を最大化するために必要不可欠なものである。学生の学びと成長の最大化(Student Success)のためには、上述した「空間」や「時間」の存在に加えて、「関与」(つながり・結びつき)が必要であると考えている。筆者は学生エンゲージメント(Student Engagement)という概念に着目し、これを「大学が提供する制度や環境、教職員が日常的に行う教育・指導等における深い関与、学生が自らの意志で選択し、学びに対して主体的に関与するというプロセスや一連の経験、そして大学、教職員、学生それぞれが払う関与の質と量の相互作用やダイナミクス」(山田、2018a; 2018b)と定義している。ここで言う関与には、認知的(アタマ)・行動的(カラダ)・情緒的(ココロ)の3領域が含まれている。遠隔授業、とりわけ教材提示型やオンデマンド型では、知識習得という目的において一定の効果を発揮したが、多くの場合、教員と学生、学生同士の間での直接的な関与は生じない。この関与の有無、とりわけ情緒的な関与の欠如が、学生の学習意欲やメンタルヘルスに影響を及ぼしていると考えられる。単に豊富な知識や良質な教材を提供すれば良いというわけではない。知識や教材が、教員と学生、学生同士の関与を媒介することによってこそ、学習の継続性や精神の安定が保たれるのではないだろうか。今回のコロナ禍で、改めて対面授業の意義、教育における関与の重要性が見いだされた。新型コロナウイルスが大学や大学生にもたらした影響は計り知れない。キャンパスの閉鎖や全面オンラインでの実施等、過去に経験したことのない対応を余儀なくされたことによって、これまでの「当たり前」が相対化された。現在進められている「GIGAスクール構想」や高等教育におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進等、遠隔やICTを基盤とした教育・学生支援が、今回のコロナ禍によってさらに加速するだろう。限られたリソースの中での画一的な支援ではなく、集積された学生の様々な学習成果や活動履歴がAIによって分析され、個々の学生の特性やニーズを踏まえた「個別最適な学生支援」といった形での展開も予想される。他方、雇用調整助成金等による家計補助や緊急経済支援による学費補助等もあり、現時点で学生の休退学者数は例年より減少していた。これは緊急的な対策によって何とか持ちこたえている状況で、この1〜2年で状況が変わってくる(影響が遅れて出てくる)ことが予想される。また、若年の自殺者数(特に女性)が急増していることは看過できない問題である。新型コロナウイルス感染によるものではなく、メンタルヘルスの不調から来る自死のStudent Successのための学生エンゲージメント「関わりを止めない」「つながりを切らない」学生支援を
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