カレッジマネジメント228号
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18リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021総人口が減少に転じた日本において、地方の未来の姿はどのようになっているだろうか。株式会社三菱総合研究所が2019年にまとめた「未来社会構想2050」※1をもとに、人口と経済活動の側面から見てみることにする。わが国の人口分布は社会構造、産業構造、交通手段の変化に伴って大きく変化してきた。近代以降を見ても、比較的均一に人口が分布していた農耕社会から、20世紀前半にかけての工業社会、さらには20世紀後半からのサービス社会へと移行するなかで地方から都市に人口が集中してきた。では、デジタル化は今後の人口分布にどのような影響を与えるだろうか。まず、既にコロナ禍で兆しが見られているように、デジタル化が進むことによって、住む場所は通勤距離や買い物の利便性に縛られにくくなる。その結果、当社試算によると、2050年には、首都圏の人口シェアが現状の28%から32%に増加する一方、地方の県庁所在市やその他の中核市の人口シェアも現状の12%から17%に拡大する見込みである。地方の県庁所在市やその他の中核市へは、地方のその他の市部から大幅な人口流入が見込まれるほか、地方の政令都市からの流入も見込まれる。背景としては①他県や他地域への交通アクセスの良さ、②商業施設や公共施設の充実具合、③自然の豊かさのバランス、等といった点が挙げられる。つまり、デジタル化の進展は、これまで重要であった仕事や買い物の場所の制約を相対的に低下させ、そこに住みたいと思える住環境が人をその場所に惹きつける鍵となる。地方都市が持っていた魅力が新たに発揮されるようになると言えるだろう。次に経済活動についてみると、2050年には消費全体の半数以上、仕事の66%、資金の取引や資産運用の69%にデジタル空間が関与するようになり、デジタル経済圏の存在が大きくなると当社「未来社会構想2050」では予想している。デジタル経済圏は地域や国境を越えて広がるため、競争力が強い地域産業にチャンスをもたらすと同時に、そうではない地域密着型産業は衰退する可能性がある。このように、デジタル化の進展は地方にとって強みを活かす機会であると同時に、もっぱら物理的制約に守られてきた弱みにとっては危機となる。教育機会も含めた住環境の魅力を高めつつ、地域密着型の従来産業を広く展開する構造から、どこにも負けない一芸的な産業を磨き上げ、ほかの地域や海外とも機能分担・競争していくことが目指すべき地方の姿と考えられる。セーフティ&インダストリー本部主席研究員高谷 徹セーフティ&インダストリー本部主任研究員山野 宏太郎ヘルスケア&ウェルネス本部主席研究員森 卓也(1) 県庁所在市やその他の中核市の魅力が新たに発揮される(2) 地域密着型からデジタル空間を通じて地域外とつながる経済圏へ移行地方の未来の姿〜デジタル経済圏の中で魅力を発揮する地方都市〜1(2)地方大学 2021年の現在地を確認する地方の未来の姿と、大学が果たす役割寄 稿株式会社三菱総合研究所科学技術・イノベーション政策分野の調査分析、大学等コンサルティングに従事。

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