カレッジマネジメント228号
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19リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021わが国は少子化により18歳人口が減少する一方、大学進学率(学部)は上昇傾向にあり、2020年度は全国で54.4%と過去最高となった。しかし、大学進学率は地域差、男女差が大きく、東京都の男性の74.2%と鹿児島県の女性の34.2%では実に倍以上の差がある。ただし、全体としては女性も含めた大学進学率の上昇が地方でも進むことによって、この地域格差、男女格差は解消傾向にある。つまり、18歳人口が減少するなかでも、むしろ地方で大学への進学需要を掘り起こす余地がまだ残されているということも意味する。では、どうすればこの需要を顕在化させることができるだろうか。まず、新産業を創出して、地域の所得水準を向上させ、大卒者が活躍できる場を地域に生み出していくことが、潜在的な進学需要を掘り起こすために重要である。大学進学率を規定する要因※2としては世帯所得、卒業後に期待できる収入、両親の学歴等が考えられており、地域単位で見ると人口に占める大卒者の割合との相関性が高い。つまり、所得水準が低く、大卒者が卒業後に流出してしまう地域では進学需要の掘り起こしは難しい。また、地方の大学がデジタル化を進め、外部の大学と連携・補完して教育内容の拡大充実を図れば、実質的な大学収容数(=入学者数)を拡大することが容易となり、とりわけ女性の進学需要の掘り起こしに効果的と考えられる。これは、大学進学率を県外の進学率と県内の進学率に分けて見てみると、県外進学率で男女差が大きい一方、県内進学率に男女差は少なく、県内進学率の水準は県内の大学収容数に相関していることが理由である。デジタル化の進展を地方が「機会」として活かすうえで地方大学の存在は欠かせない。住環境の魅力を高め、一芸的な産業を磨き上げるためにも、地方大学という教育・研究拠点が不可欠だからである。しかし、18歳人口の減少による伝統的な大学教育市場の縮小は「確実な未来」であり、進学率の上昇余地があるといえども、地方大学が存在し続けるためには新たな大学教育市場の開拓も不可欠となる。注目すべきは「社会人教育」であり、それに本格的に取り組むことで、「地域の高校生を地方大学が育てる」という地産地消モデルから脱却し、地方大学が地方創生の切り札となり得ることになる。企業が社内で様々なポストを経験させながら人材育成を行う、いわゆるメンバーシップ型の日本の労働市場では、大学図 1 都市間の移住意向(その他の市部から県庁所在地・中核市への移住意向が多い)東京・神奈川・埼玉・千葉の市部(含む東京23区)政令指定都市県庁所在地・中核市その他の市部町村部0.6%0.3%3.4%0.2%0.3%0.5%(出所)株式会社三菱総合研究所「未来社会構想2050アンケート調査」(N=5,000、2019年7月実施)より作成(1) コロナ禍で急速に高まる社会人の学び直しニーズを捉える新産業創出と大学のデジタル化により進学需要を掘り起こし2社会人市場開拓を契機に、教育の「地産地消」モデルから脱却3特集 地方大学の新たな選択肢

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