カレッジマネジメント228号
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20リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021での学び直し(リカレント教育)によるキャリアアップが浸透していないため、社会人教育市場は多くの大学にとって「鬼門」だった。しかしコロナ禍によって社会全体の急激なデジタルトランスフォーメーション(DX)が進展するなか、社会人の学び直しを巡る環境も大きく変化した。コロナ禍による雇用不安の高まりが現役社会人の将来への危機感を高めたこと、テレワークを中心とした働き方改革で学習に費やす隙間時間が生まれたことで、現役社会人による大学のリカレント教育への機運が一気に高まっている。内閣府が令和2年6月に発表した生活意識調査※3では20代・30代を中心にビジネス関係の学び直しへの意識が高まっていることが示されており、これに着目したビジネス系大学院や民間研修会社は社会人教育市場の開拓に積極的に取り組み始めている。社会人の学び直しは、一芸的な産業へのシフトが切実に求められている地方にこそ効果的である。地方には成長可能性のある企業が少なくなく、その経営者等が地方大学から新しい知識や技術を導入することで、自社を魅力的な企業へと変身させることが可能となるからである。実際、三重県では「社長100人博士化計画」を掲げる三重大学と連携し、同大学で学んだ県内企業の若手経営者の新たな事業展開を県の産業振興施策が後押しする仕組みを導入※4している。「地方大学で優れた人材を育てても地域産業に就職先がない」と言われ続けてきたが、社会人教育を通じて地域産業の再生(リノベーション)が進めば、地方大学が輩出する若者の就職先として地域産業の魅力が高まる好循環につながる。実際、前述の三重大学では地域産業界に卒業生が中核社員として就職する流れが出てきているという。一方で、地域企業の経営者を地方大学に務める教員が教えるという、教育の「地産地消」では地域産業の魅力を高めるうえで限界があることも確かだ。世界水準で魅力ある地域産業に変身させるためには地方大学がハブとなり多種多様な教育資源を地域外から集めることが重要だ。信州大学では長野県内の中小企業が抱える課題解決のため、首都圏の優秀な人材を同大学の研究員として送りこむ「信州100年企業創出プログラム」を展開している。この仕組みでは地域企業の課題解決とともに、首都圏の人材に対しても実践的な学び直し機会を提供し、優秀な人材を地域に呼び込む呼び水とする狙いがある。このような都市圏の人材を教育資源として地域に呼び込む取組はコロナ禍によるデジタル化が進展したことでさらに進展することが期待される。社会人教育への本格参入が進めば、地方大学自体も大きく変化する。魅力的な社会人教育プログラムがオンラインで提供できれば、その対象は域外企業に務める社会人にも展開可能となり、地方大学の市場は地域外にも拡大することになる。地方大学が都市圏の社会人教育市場を狙わない理由はない。特に卒業後、地域を離れて都市圏に就業した卒業生へ社会人教育を提供することは、卒業後も地域との関係を維持するという意味で重要性が高い。海外の事例であるが、シンガポール国立大学では、大学入学から20年間は卒業生が無試験で大学に戻り新たなスキルを学べる制度を創設している※5。地方大学においても在学中だけでなく生涯にわたって学習機会を提供することが「選ばれる大学」となる切り札となるのではないか。人口の流出・減少が続く地方に置かれた大学には、「イノベーションの源泉となり、地域の知の拠点として確立」することが求められている※6。大学はその研究力や蓄積してきたシーズ(種々の知見、技術等)を、多様なステークホルダーとの連携のなかで活用し、地域発イノベーションによって産業と雇用を創出することが期待されているのである。従来、産学連携として取り組まれてきたのは「地理的な近隣(=地元)の既存企業との連携による地域貢献」というスキームであったが、これは限界を迎えつつある。大きな理由としては、多くの地域において大学のシーズを十分に活用できるだけの産業基盤が不足していること、地域の大学がカバーできる分野(学部)と産業構造がマッチしていないことが挙げられる。これを乗り越えるには、「地域=近隣(2) 社会人教育を通じて地域産業の再生を加速させる(4) 社会人教育を契機に地方大学は学生の生涯サポートにシフトする(3) 地方大学がハブとなり域外の人材を地域に呼び込む地域における新産業創出の要としての地方大学4

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