21リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021(地元)」「既存企業の支援」という発想から抜け出る必要があるだろう。これを乗り越え、地方大学が「イノベーションの源泉となり、地域の知の拠点として確立」して地域の未来を先導する役割を持つためには、「地域=近隣(地元)」の「既存企業」との連携にこだわった、いわば「イノベーションの地産地消」的な発想から脱却することが不可欠であろう。そもそも、現状における大学のシーズと近隣(地元)産業のミスマッチだけでなく、データサイエンスやAIの活用が急速に進む将来においては、地方も含めて産業構造が大きく変化すると考えられる。地方の生き残りは、現状維持を志向しても実現できず、産業構造が更新され続ける必要がある。そのエンジンとしての新産業創出こそが、今後の大学に求められる役割ではないだろうか。では、新産業創出に必要なポイントは何か。近年注目されている事例を見ると、いずれも最も強みを発揮できる粒度で自らの研究領域を定め、そこから生み出せるインパクトの最大化を図っていることが見えてくる。山形県鶴岡市に設置され、注目のベンチャー企業を次々に生み出している慶應義塾大学先端生命科学研究所、長年蓄積してきた地域住民の健康診断データを背景にCOIプログラム※7に採択され、大企業との連携体制を構築した弘前大学、長年続けてきた希少糖研究の成果を活かし、他県企業も巻き込んで事業化を図る香川大学等は、正にその例であろう。また、これらはその地域外の大学もしくは企業をうまく取り込んでおり、イノベーションの「地産地消」から脱却した事例であることも注目したい。大学や自治体の規模に合わせて粒度を考え、その「大学ならでは」のシーズや強みを突き詰めることで、初めて日本や世界の企業を振り向かせることが可能となる。大学の強みやシーズを突き詰めるにはリソースの重点配分等のマネジメントが必要となるが、従来は地域における高等教育機会の保証という要請から、学部(組織)の改廃やリソース(予算、教員)配分の大幅な変更は極めて困難で、思い切ったマネジメントは難しい状況であった。しかし、こうした状況は変わりつつある。一つには、大学間での連携・統合や学部の譲渡に関する制度改正が進み、さらにはその実例が生まれていること、もう一つはコロナ禍を契機として急速に進んだ教育のオンライン化が挙げられる。これによって、自大学の足りないリソースや科目は他大学との連携・統合等によって補いやすくなり、学生が他大学の科目を受講しやすくなった。今後は、大学間連携・統合を通じた相互補完によって教育の内容・水準は維持しつつ、思い切った重点投資で自大学の差別化・特色化を進め、その成果を核として新産業創出に貢献する、といった大学像が見えてくるのではないか。以上、地方の未来の姿と大学が果たす役割を、長期的な社会構造の変化を念頭に述べた。人口減少とデジタル化が同時に進むわが国において、地方には機会と脅威が同時に存在している。そこで地域産業、そして地域大学に求められるのは閉ざされた地域でのナンバーワンを目指すのではなく、外とつながった世界のなかでのオンリーワンを目指していくことである。大学がオンライン化も活用して魅力ある教育を社会人にも提供し、尖った新産業を生み出していく。そのことが地域の魅力を高め、大学にも人を集めていく。そうした好循環を作るために大学が一歩を踏み出すことが今こそ求められている。※1株式会社三菱総合研究所「未来社会構想2050を発表」https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/ecovision/20191011.html※2大学進学率の規定要因や地域格差については多くの先行研究がある。例えば、朴澤泰男『高等教育機会の地域格差 地方における高校生の大学進学行動』東信堂(2016) ※3内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(令和2年6月21日)
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