カレッジマネジメント228号
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39リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021都道府県を1つの大きな事業体と見た時、その事業の全体指針に人材受け入れと育成を担う部署たる大学が呼応し、事業の方向性に沿った育成スキームを描くのは道理である。道理ではあるのだが、定期的な会合はあっても、事業として向かう方向性を推進すべく、戦略レベルの連携まで進んでいる座組みは決して多くはないのではないか。それはつまり、自治体の中で高等教育機関が担う役割が抽象に留まり、また高等教育機関からの意見も形式的なものに留まり、お互い期待値を持ちながらも融合しきれていないということの表れではないだろうか。いくら地元愛が強くとも、学びたいのに地域に学校がなければ学校のある場所へ若者は流れ、働きたいのに地域に仕事がなければ仕事のある都会に人は流れる。教育と産業はどちらも自治体の柱。関連し合い、連携すべき2軸である。歴史的に強い産業もあれば、見直しが必要なものもあろうが、県の抱える産業を強くし、そこに送り込む人材バンクとして高等教育機関を振興する。そうした流れを意識できなければ、大学まで進んでも若者は仕事を求めて都会に出ていく。その是非を問うものではなく、地元にその受け皿があるかどうかで、若者は選択肢が広がり、自治体は可能性が広がるのではないかということだ。医療分野等では地元の高齢化を支えるリハビリテーション職を大学で育成する動きは多い。それは地域の「今」に向き合った活動である。では、地域の「将来」に向き合った動きはあるだろうか。「地域の大学」を標榜する大学は多い。そうでなくても、地元自治体と話し合いながら大学創りを進める大学は多いことと思う。そこからもう一段踏み込み、将来を見据えた自治体の主体的な議論に対応し、地域に所在する大学がその方向性に沿った改革を行うことで、人材育成や課題解決の方策が有機的に組み合う。これは必ずしも自治体が音頭をとるということではない。一つひとつの機関にできることは限られているかもしれないが、チームとして同じ方向を向き、指示を待つのではなく、課題に対してそれぞれの分野でできることを主体的に構想する姿勢が大事ではないだろうか。(文/鹿島 梓)県の将来性を下支えする大学の存在意義静止画像・動画像からの一般物体認識が人間レベルに到達特定領域において、文脈や背景知識を考慮した認識が可能にスーパーコンピュータでは処理することが困難な計算が可能になる(量子優位性)デジタルコンピュータの汎用化特定ドメインに限らず、一般ドメインにおいて、文化や社会的背景等を考慮した認識が可能に認識能力画像とテキストを相互変換する原始的シンボルグラウンディング技術の確立新聞等のフォーマルなテキストの分類、情報検索、含意関係認識等が人間レベルに到達インフォーマルなテキストの分類、情報検索、含意関係認識等が人間レベルに到達。機械が仮説や要約を生成意味理解高度なゲーム等のタスクの遂行(プランニング)が人間レベルに到達スモールデータでの学習により、深い背景知識を必要とするタスクの遂行文化や社会的背景を必要とするタスクの遂行が人間レベルに到達タスク遂行AI量子コンピュータ人間が出来る理解に加え、人が出来得ない、データ解釈・示唆の提供が可能に大規模データを用いた最適な組み合わせ導出等の複雑な計算を超高速、高精度で行うことが可能に・個別化への対応が容易に・複雑な、一般化できないテーマにおいても、問題を予知したり問題への“合理的”な解決策を提案できるようになる地域交通における随時の全体の最適化等、複雑な問題への迅速な提案を可能にする計算が可能になる202020302040技術進展により実現可能になると言われていること(例)提供可能になる価値AI、量子コンピュータ等の基盤技術は、2040年に向けて進化していくと考えられる出所:NEDO「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」、文部科学省「量子科学技術(光・量子技術)の新たな推進方策概要」を基に作成特集 地方大学の新たな選択肢(4)競争から協働・共創へ

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