43リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021を3つの「変化」から説明したい。まず、18歳人口の急増から急減局面への転換、そして高齢化社会の到来という、2つの人口動態の変化である。18歳人口は、平成4年のピークに向けて急増した後、急速な減少へと転じた。減少局面を迎えても大学の入学定員は増え続け、結果として大学は18歳人口に対して過剰となり、淘汰の時代を迎えた。これが一般的な理解であろう。しかしながら、地方の理解は必ずしもそうではない。18歳人口の急増期に特に都市部で膨れ上がった過剰な収容力は、18歳人口急減期には、地方の若者を引き寄せる強力な吸引装置と化した。地方の立場から見た18歳人口の減少とは、地域で育つ若者自体の減少であり、加えて地方からの人材流出を加速させるという二重のインパクトを持つ。それを何とか押しとどめようと、地方において公立大学設置を促す政策圧力は高まった。もう一方の高齢化社会の到来。これに対しては平成元年、大蔵・厚生・自治3大臣の合意を得た「ゴールドプラン」が策定された。同プランは冒頭、消費税導入との関連も示しながら高齢化社会への対応を以下のように述べた。我が国は、いまや平均寿命80年という世界最長寿国になり、21世紀には国民の約4人に1人が65歳以上の高齢化社会となる(中略)。このため、消費税導入の趣旨を踏まえ、高齢者の保健福祉の分野における公共サービスの基盤整備を進めることとし、在宅福祉、施設福祉等の事業について、今世紀中に実現を図るべき10か年の目標を掲げ、これらの事業の強力な推進を図ることとする。このプランを踏まえ、平成4年に「看護婦等の人材確保の促進に関する法律」が制定される。同法は、看護職員の確保に必要な措置を講ずることを地方公共団体の責務とした。それに対し自治省は、これまでの抑制政策を転換し、看護系の公立大学の新増設などの施設整備に関して起債を認め、その償還に対し手厚い財政支援を講じた。高齢化社会という平成期の国難を受け止めた医療人材の養成が、再び地方に委ねられたのである。このように2つの人口動態の変化が、地方自治体に対しては公立大学設置を強く促し、国に対してはその支援政策を用意させた。これらの動きをさらに強めたのが、同時期に発生した「バブル経済の崩壊」という経済状況の変化である。どういうことか。バブル崩壊は平成初期において、平成期が衰退の時代であることを強く印象付けた出来事である。これに対し、冷え込んだ景気を回復させるために、地方に対する大型のインフラ投資が行われる。本格的な景気対策の皮切りとなった平成4年8月の総合経済対策は、この時点だけでも総事業規模10兆7000億円に上り、地方単独事業のための地方債の追加1兆8000億円や、地方の公共用地の先行取得のための1兆円などをその内容としたという。こうした経済対策により、看護系だけでなく、幅広い分野の公立大学の設置に対しても財政支援を行うことが可能となった。またバブル崩壊は、人口動態の変化そのものにも影響を与え、地方からの人材流出を加速させた。即ちバブル崩壊による地域経済の疲弊は、高卒生に好条件となる就職先を減少させ、高卒求人倍率の低下がもたらす高卒初任給の低下や高卒無業率の上昇は、進学率の上昇圧力となる。こうして生まれた新たな進学者を都市部に奪われることを容認できない地方自治体は、公立大学設置によって地域の大学収容力の向上を図ろうとしたのである。これらの人口動態、あるいは経済状況の変化に対し、地方が機敏に対応できた政策背景には「地方分権」がある。平成5年に衆参両院で「地方分権の推進に関する決議」が行われた。この流れに向けて、公立大学をめぐる自治省内での議論にも変化が起こったという。元自治省関係者は、筆者のインタビューに対し、以下のように述べた。大学はなにも国だけのものではなく、地方自治体にもっと広く設置を認めていいのではないか。旧帝大クラスならさすがに国であろうが、地域の大学をわざわざ国でやるものではないといった議論が自治省の中にもあった。すなわち、地■人口動態の変化■経済状況の変化■国・地方の役割分担の変化特集 地方大学の新たな選択肢
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