44リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021域の中でコンセンサスがあって、設立目的が明確ならば自治体による大学の設立はあるということだ。確かに自治体に大学運営の専門性はないが、その代わりに地域振興と大学を結び付けて考える力がある。地方分権の進展は自治体行政を活性化させる。その結果として、自治体に必要となる新たな施策が生まれれば、自治省はそれを支援する。ここには国と地方との間における政策の役割分担の変化が見て取れる。しかしながら追い風は長くは続かない。公立大学設置の際の自治省の財政支援は概ね平成12年度をもって終了し、13年度以降の財源確保は地方自治体が単独で賄うこととなった。こうした「逆風」の中でも、関係者の努力と工夫は続き、その政策パターンを3つに分化させながら、公立大学の設置政策は継続する。「短期大学の四年制化」「大学統合」「私立大学の公立大学化」である。平成中期以降、公立短期大学を四年制化する手法で、名寄市、新見市、福山市などの基礎自治体を含め、多くの自治体において公立大学が設置された。もちろん、平成前期においても短大の四大化の例はある。しかしながら、この時期の四大化については、短期大学の存廃をめぐる短大と設置自治体の厳しい攻防が各所で生じたのである。即ち公立短期大学は、特に女子の四大志向によりその存在意義が問われた。それに対する四大化構想が、既存の教員組織の温存を図るだけのものと設置自治体に理解されれば、財源確保が困難化した中にあっては、単なる短大廃止の議論の方が先行する。そして、短大の実績と今後の可能性について、設置自治体から一定の評価が得られた後に、四年制化の決断はもたらされるのである。公立大学の統合は、平成16年度からの6カ年度に集中的に行われ、東京都、大阪府、兵庫県等において、17大学が7大学に統合された。これらの大学統合はちょうど公立大学の法人化の始まりと歩みを同じくした。公立大学法人制度は、設置自治体の判断による法人化を可能としたが、発足時の国立大学法人制度とは内容に異なる点が多い。理事長・学長の別置型、一法人への複数大学設置を可能としているほか、法人化後の最初の学長についても、設置自治体は自身が望む人材を自由に任命することができる。こうした法人化により公立大学政策は設置自治体の強いイニシアチブの下に置かれるようになり、それに伴うように進んだ大学統合は、当時自治体に強く求められていた行政改革を行うための絶好のターゲットにもなったのである。平成21年度以降、高知工科大学、名桜大学、山口東京理科大学など10校を数える私立大学が、その設置者を変更して公立大学となった。それまで、自治体の出資によって多くの私立大学が地方において設置されてきた。確かに18歳人口の急減は、地方大学の必要性を高めたのだが、これらの大学にとって18歳人口のさらなる減少は志願者減に直結した。そしてこの政策は「経営困難に陥った地方私立大学の税金による救済」との文脈で繰り返しマスコミに取り上げられ、そこにはこれらの政策を問題視する識者による解説が添えられた。もちろん、これまでみてきた通り、平成中期以降の公立大学の設置は、単純に前向きな政策という側面だけでは語れない。中でもこの設置者変更政策はまさに危機的局面への対応という性格を有する。そこでは地域の大学の存続が、その地域の誰の目から見ても確実に必要とされる課題であるのかが強く問われる。そして公立大学の設置をあえて引き受けることが「地方自治の判断」として行われた場合にのみ、設置者変更政策は実施される。ここまで平成前期と中期以降に、合計4つの政策パターンをみてきた。特に中期以降の逆風の中では、地方自治と大学の自律性との間に、厳しい葛藤を見なければならな平成中期以降の設置政策の多様化地方大学の未来を開く「政策アクター」の信念■短期大学の四年制化■私立大学の公立大学化■大学統合
元のページ ../index.html#44