50リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021フォリオ」も、2015年度後期から導入した。ただ、合田学長が「本学のキャリア教育の特長」とするのは、こうした科目のラインナップではない。4年制大学になった2003年からの蓄積で、授業がブラッシュアップされ、外部講師も厳選されていっていることだ。「企業の人事担当者、地域の方、キャリアカウンセリングの専門家など、外部の色々な方にキャリア科目の講師をお願いしています。その授業を進路就職関係部署の職員が見て、いいと思った方に本学の教育方針や学生の特質をよりよく知ってもらい、本学の学生向けに授業を改善してもらうことを積み重ねています。その結果、いわゆる『滑る』ことがなく、しっかり『引っかかっている』と自負しています」。ここからも分かるとおり、尚絅学院大学で職員の存在感は大きい。教員と職員の距離も非常に近いという。「改組についても、教授会ではなく事務職員も入った全体会で説明し、意見交換もして理解を浸透させました。また、教務部長、学生部長などの先生方は、その元で仕事をする事務方からの信頼度も参考にして登用します。そういうこともあって、非常に良好な関係ができています」。1キャンパス1学部体制が長かったためか、教員のまとまりも比較的よく、改革に当たり特に困難はなかったという合田学長だが、「もし難しいところがあるとすると」と挙げたのは、学生募集に関する危機感の伝わりにくさだ。東北地方でも18歳人口の減少が顕著であることを、合田学長は非常に深刻に捉えているが、近年の志願者増もあってか、学内の空気は「今までどおり一生懸命やればなんとかなるだろう」だという。「高校生の数が1割減ったときにどの大学も志願者が1割減るのなら、あまり怖くはない。しかし、減らないところは減らない、つまり、集中的にどこかの大学で減る。これはすごく怖いことです」。数字に表れた19年改組の成果として、まず志願者の増加がある。また、学生アンケートの満足度も高い。卒業時の満足度は98.1%、在学生全体では約85%だ。就職率も、就職希望者に対する比率が98%、卒業者全体に対する比率は93%~96%と、高率を維持している。個別の施策として「SPレーダー」の成果を尋ねると、合田学長は「まだ成果とは言えないものの、手応えは感じている」と答えた。「手応え」の1つは卒業生アンケート(満足度調査)だ。「自由記述欄に書いてもらった満足度の理由に、『尚絅でこれができるようになった』『こういう力がついた』、だからよかったというタイプの、しっかりした回答が増えてきた実感があります」。概ね成果が上がっているなかでの今後の課題は、「19年改組以降の1期生の進路が、2023年3月にどういう結果として出てくるか。それも踏まえて改革をどうチューニングしていくか」だという。「尚絅が新しくなったことに対する社会的な評価を浸透させ、信頼度を向上させていくために、次の一手が大事と考えています」。改組の学年進行完成後を見据えて、将来構想のプロジェクトを再び立ち上げ、この中でいくつか学長として重視したいと考えていることがあるという。その1つはSDGsの推進だ。「SDGsのゴール達成もさることながら、SDGsを通じて大学としての人間教育を実施できればという意図です」。2つ目は、大手の伝統や知名度のある大学と戦ってもう一段上を目指すために、「ピーク」を作ること。心理・教育学群には保育者・教員養成や心理学、健康栄養学群には管理栄養士養成と、それぞれ「ピーク」があるので、人文社会学群にも「ピーク」を作り、3学群でラインナップを整えたいという。もう1つの「ピーク」が国際交流だ。留学に行く学生・来る学生共に多くはないが、「それでも東北のこの規模の大学としては光っているというポジションはつくれる」と合田学長は意欲を示す。3つめに挙がっている柱が「地域」だ。学生の多くが東北6県の出身で、就職先も約8割が東北ということから、「地域から来た学生を地域に帰す」役割を今後も担っていく。社会人教育において地域から大学に寄せられる期待も感じているという。合田学長からは、「地域と『共に生きる』ことを大切にしてきた大学です」と、ミッション系スクールらしい言葉も聞かれた。課題となる人口減少への危機感の醸成学生アンケートから改革の手応えも(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)
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