カレッジマネジメント228号
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57リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021改善が進み、外部資金の獲得増などURA導入の効果も現れ、広くその役割や存在意義が理解されるようになった。最大の課題は、安定的な雇用を実現するための財源の確保と認定制度による質保証の確立の2つ」と述べる。筆者が在籍した東京都立大学でも当初の混乱を乗り越え、2021年3月現在、多様な専門性を有する10名のURAが、研究IR・情報提供、外部資金獲得支援、研究プロジェクトの形成支援、研究広報支援、企業等とのマッチング、知的財産管理・活用と実用化・事業化に向けた支援など、大学の研究活動をトータルにサポートしており、必要不可欠な機能として学内外で高い評価と信頼を得るに至っている。総合研究推進機構の十津川剛上席URAは「外部資金の獲得だけでなく、新しい研究テーマや研究チームの創成、大学の研究戦略策定など、研究推進に係る様々な活動に対して、新たな価値を提供できたと感じられることがやり甲斐だが、研究に最適化された環境整備に向けて課題も多い」と話し、田中有理URAも「研究者に伴走しつつ、研究が円滑に進むように企画・提案・支援することが、大学ひいては日本の学術研究の発展につながると思えることがやり甲斐につながっているが、任期付きの場合、関連機関との人事交流などで難しい面もある」と述べる。山本氏によると、当初は事務職員の専門能力を高めて対応すべきとの考えもあったが、高度専門職としての配置・育成が進むなか、岡山大学では二人のURAが副理事に登用されるなどキャリアパスが見え始め、博士課程の学生の進路選択肢の一つになりつつあるという。その上で、「大学機能全体を高めるためには、教員と事務職員に加え、URAをはじめとする高度専門職や技術職員がそれぞれの能力を向上させながら協働する体制を確立する必要がある」と述べる。URA制度の普及を強力に後押ししてきた研究大学強化促進事業も2023年度で終わり、補助を受けてきた大学には独自財源に基づく自走化が求められる。また、本格導入から10年足らずで急速に普及しつつあるとはいえ、依然として国立中心であり、公立や私立での導入例は全体の一部にとどまる。大学の規模や性格によっては、URAという制度をあえて導入する必要性が低い場合もあると思われる。しかしながら、冒頭に掲げた「多様化し高度化する大学の業務を誰がどう担うか」という本質的・構造的な課題は全ての大学に共通であり、これを考えるにあたって、URA制度を巡るこれまでの経過や議論は多くの示唆を与えてくれる。現在のURAの機能を、専門能力を高めた事務職員に担わせることができるかと考えると、現実は極めて厳しいと言わざるを得ない。研究IR一つとっても、研究活動に対する理解、学術や学会の動向への関心、内外の調査報告等を読みこなす能力、データ分析力などが必要となる。研究者として一定の訓練を受けた人材への期待が高いのはそのためである。これらの能力が備わることで、教員と互いの役割を理解しつつ、協働することができることになる。このような問題は研究だけにとどまらない。教育に関しては、教学IRやFD等の活動を担う専門スタッフの必要性が指摘されている。このほか、学生生活支援、キャリア支援、国際交流などの業務でも、これまでにも増して高度な専門能力を有したスタッフが求められることになるだろう。そのためには、これらの職に期待する機能、具体的な業務、遂行に必要な能力を明確にするとともに、人材ソースをどこに求め、採用後の処遇、キャリアパス、育成をどうするかなどについて十分に検討しておく必要がある。そこには、人件費抑制を余儀なくされるなか、これまでの教員・職員二元論的発想では容易に解決できない難度の高い問題が横たわっている。その問題を解く鍵を、URAのこれまでを振り返り、今後のあり方を考えるなかで見つけていかなければならない。教員・職員二元論的発想では解決できない問題【参考文献】山野真裕(2016)「大学のリサーチ・アドミニストレーターの導入と変遷に関する日米比較−リサーチ・デベロップメント機能の拡大−」『大学経営政策研究』第6号山本進一(2019)「解説:我が国へのURAの導入−その経緯,活動と課題−」『大学評価・学位研究』第20号

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