7リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021社のバランスシートは悪くはなく、財政的な体力があったので退職金も手厚く出すことができました。また、特定の社員に対して肩叩きのようなこともしたくなかったので、社員全員に打診をしたわけです。結果、2万人の社員のうち1100人が退職に手を挙げました。また、1700人は一時金を渡し、子会社に完全移籍してもらいました。日本はアメリカのように頻繁にリストラができませんから、財政的な体力のあるうちに一度きりの大手術で健康体に戻ります、と宣言して決行したわけです。その後、会社の事業は世界一を目指した商品だけを手掛けると決めました。われわれは環境・安全・情報通信技術の分野で世界一を目指す。他の分野は他社に負けてもいい。このように宣言してダントツ商品・ダントツサービス、そして今ダントツソリューションを目指しています。ちなみにこの考えを大学に当てはめると、学生が商品、リカレント教育や社会人教育がサービス、そして基礎研究や産学連携、ベンチャー創出がソリューションということもできます。――コマツはバランスシートが良い状態の中で、改革を行ってきました。大学も今はまだは悪くない。けれど将来厳しくなることは分かっている。大学経営においても参考にすべきことが多分にあるように思います。企業も大学も究極の目的は顧客価値を創造することは共通です。企業活動と重ね合わせると、大学にとって商品は学生、それを届ける先のお客様が社会です。そのお客様である社会が、今変わってきている。かつての企業は偏差値の高い学生を採用し、社内で育てていましたが、今は国際競争に勝つために必要な知識やスキルを持った人材を必要としています。大学が単に平均点主義で偏差値の高い人材を育成しても社会のニーズには合わなくなってきているということです。今こそ大学は本当に世の中や企業が求めているニーズを見つけ、集中して人材育成に取り組んでいかなければいけない。滋賀大学のデータサイエンス学部ができたときは、企業は卒業生を待ち構えていましたよね。企業側はこのような具体的な知識を身につけた人材をみんな欲しがっています。IoTに特化した東洋大学の情報連携学部情報連携学科等もまさに焦点を定めた学部といえるでしょう。特集 地方大学の新たな選択肢坂根正弘 (さかね・まさひろ)1941年生まれ。島根県出身。大阪市立大学工学部を卒業後、コマツ(株式会社小松製作所)に入社。91年小松ドレッサーカンパニー(現コマツアメリカ株式会社)社長を経て、2001年代表取締役社長、07年代表取締役会長、19年顧問就任。14年より「まち・ひと・しごと創生会議」構成員。著書に『限りないダントツ経営への挑戦』(日科技連出版社)『ダントツ経営』(日本経済新聞出版社)『言葉力が人を動かす』(東洋経済新報社)等。
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