カレッジマネジメント228号
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8リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021――地方大学は特色づくりよりも、ミニ東大を目指してきたのではという指摘があります。現在の地方の国立大学の学部を見ると、数の多さに驚きます。旧帝大や大都市の大学では、多いところで12学部、地方の国立大学でも10学部のところもあります。まさに「総花主義」の象徴といえるのではないでしょうか。地方大学の人材育成には全国供給型人材と地元産業供給人材の2つの視点があります。大学経営においてこの2つのバランスは大切です。これまでは全ての地方国立大学が全国供給型で同じような人材を育て、結果、微妙に偏差値の高い大学と差をつけられてきた。ですが、社会の中のある部分に特化して人材を育て、もしくは地元産業の強い分野に焦点を当てれば、そこにしかない独自性を持った少なくとも日本一、そして世界一も目指せるはずです。地元産業供給型の人材を育てることは大学の特色を作っていくことにつながるのです。しかしそこでもう1つ課題となるのは、日本の地方の行政や産業が地元の国立大学と接点が少ないという点ですね。――各地方の産官学連携の推進を目指した「地域連携プラットフォーム」や「大学等連携推進法人」という形も生まれようとしています。そうですね。地方行政は国立大学に対して人やお金を投資し、地元産業界も呼び込んで、産学官の連携を進めていくのが本来の形ではないかと思います。地方における産学官連携の理想的なモデルのひとつとして私が提示していているのが、ドイツのフラウンホーファー研究機構です。大学と研究所と地元行政が一緒になって地域産業を作り上げていくというものです。そこでは教授、研究員、産業界の人材が頻繁に入れ替わって勉強し、それが地方の特色づくりに貢献しています。フラウンホーファーは、戦後間もないころからドイツが進めてきた地方主権に沿って地方大学のキャンパスに広がり、現在ではドイツ国内の75カ所に設置され、地方産業の中心的役割を担っています。一方、日本は戦後、中央集権で国を作っていきました。中央集権があり、各大学は部分最適を目指し、それが全体最適につながるという形を目指してきました。つまりみんなが良くなれば全体が良くなる、という考え方で1980年代までやってきたわけです。しかし、1990年代以降は時代が変わり全体最適につながらなくなったために、日本はこの30年間悩み抜いてきたわけです。また、地域との連携や大学間の連携の前に、大学内の連携という問題もあります。例えば医学部=医師学部という考え方があります。ですが今や医療分野は医療機器や医薬品の勝負の時代です。医薬獣理工だけではなく、データサイエンスも医療の主流になっています。現在、日本とアメリカの医療は大きな差がついているのですが、大学内の連携ができていないこともその一因となっているわけです。そういった点からも大学が教育や研究のあり方を変えることが、日本全体を変えるための早道かもしれないのです。――産官学連携の海外事例でいくと、もともと鉄鋼の町だったアメリカのピッツバーグが医療産業都市に生まれ変わった例があります。シリコンバレーが生まれたのもその一例です。地方で産業クラスターを生み出すために大学だけでなく行政や産業の力も必要かもしれません。

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