9リクルート カレッジマネジメント228 / May - Jun. 2021大学の特色が先か、地元の産業が先か。これはニワトリと卵の関係で、両方の方法があると思います。地元に特色ある産業が既に存在していれば、取り組みは始まりやすいですね。一方、日本の地方の学生を元気にするためには、地元に既にあるものの「周辺」で関連のベンチャーを新たに立ち上げるといった方向もあるでしょう。こういった試みは学生もモチベーションが上がりますよね。私は両方のアプローチが必要だと思っています。そのためには地方の金融機関の役割も大きいと思います。――地方大学が改革を考える際、学部の新設や定員についての課題があります。取りまとめの中では、地方国立大学の定員増について、“特例的に”行われるという点が強調されています。定員増を安易に認めたら、学生は偏差値の高い大学に向かってしまいます。しかし大学が改革に取り組む際、学生が学部に在学していると学部の改組は簡単にはできません。となると、新しい学部を作るといったプラスアルファの取り組みを始めることになります。企業の場合、改革の理念を掲げたトップが出現し、取締役会が正しく機能することで、「新しい事業を始めるためにはこの事業はやめよう」といった事業の選択と集中をします。資金も人材も限りがあるので、プラスアルファをするときには何かを削らなければなりません。大学も、プラスアルファのために何かを捨てるというこの決断できるかどうか。そこが今の日本の大学が抱える一番大きな問題だと思います。もちろん魅力的な特色のある学部は認めていくべきです。しかし単純に増やすだけではなく、同時に、4~6年後を見据えた大学内における選択と集中のプランを考えることが必要だということです。新しいプランに加え、将来大学をスリム化する全体計画があり、文部科学省がその分野の価値を認め、学長もやる気にあふれている。そういった条件が全て揃って初めて学部増や定員増を認めるべきである、というのが私達検討会議の主張です。地方大学・地域産業創生交付金の審査でも、学長と地元行政のトップの本気度を最も重視しています。大学進学率を数字でみると54%だからまだまだ大学生は増える、と期待する考えもあるようですが、実際には高専や専門学校等を含めると高校生の80%以上が勉学の道に進んでいます。高校を出てから就職している人は2割もいない。ですから、これ以上大学生を増やすことは難しいのです。この現実をしっかり見据えることが必要です。この点においては、公立大学や私立大学のほうが強い危機感を持っていて、国立大学よりも早いスピードで変わっていくのではないかと考えています。――そういった改革を進めるにあたり、大学のガバナンスはどのようにあるべきでしょうか。まず大学を取り囲む事実をしっかりと見ることです。10年後の18歳人口減少ははっきりしています。お客様である社会が求める学生が急速に変化している。では自分達がどう変わればいいのか。「体力があるうちに1回限りの大手術で健康体に戻す」ことは大学にも当てはまります。企業がこの手術の機を逃すと、本来一番注力しないといけない中核技術・中核事業を売却しなければいけないという手遅れの事態になります。採算の足を引っ張っている事業の議論は切り離し、稼いでいるものに集中する。大学を囲む様々な変化を考えると、地方大学にとって今が元気を取り戻す最後のチャンスかもしれません。今の自分達の現状をしっかり見て、どこに焦点を合わせて学生を育てていくべきか。それを学内で議論すべきです。――最後に大学の経営層にメッセージをお願いいたします。全国供給型の人材ばかりを輩出するよりも、地元に投資をしてもらってどう変わるかを決める。学部増・定員増のプラスアルファをするなら、その分マイナスにすることも明確にさせる。このままの状態を続けて1回の大手術で健康体に戻れなくなってしまう前に、産業界から改革に必要な資金が集まってくるような、魅力ある大学づくりをスタートしてほしいと考えています。(文/木原昌子 撮影/平山 諭)プラスアルファのために何かを捨てる決断を特集 地方大学の新たな選択肢(1)インタビュー
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