カレッジマネジメント229号
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39リクルート カレッジマネジメント229 / Jul. - Aug. 2021十分ながら模試が行われ始めたのは10月・11月、しかし総合型や学校推薦型の入試は始まってしまっている、中間層の高校生には厳しい展開だったと言えます。そういった意味で、入試制度改革より、コロナ禍のほうが進路選択に与えた影響は大きかったと思います。探究的な学びが進んだことは影響がありました。探究の成果は、今回の入試改革における総合型選抜や学校推薦型選抜でのアピールにつなげられました。準進学校の高校では、探究の成果をアピールして上位大学への合格者を出すということが起きていて、そこは高校と大学が、いわばwin-winの状態であったということかもしれません。──大学側は、新しい学力を身につけた高校生を受け入れる準備ができているでしょうか?どの大学もアドミッション・ポリシーを示し、制度の整備が整ったことは一定程度評価できます。しかし、必ずしも選抜方法と合致していないことは問題だと言えます。またALを導入した講義改革を進められている大学もまだまだ少ない。大学1、2年生の状況をみたとき、特に都市部の私立の総合大学の中には、1学部で1000人も学生がいて、1つの講義科目に300人、400人が受けている状況があります。そこでALができるわけがありません。つまり講義改革は、先生達の授業力の問題だけでなく、1授業の履修定員を減らす問題でもあります。そのためには、定員規模の見直しが必要です。またST比は教師1人が受け持つ学生数を表し、どの程度学生に対応できる組織規模かを見るわけですが、ST比がどうであれ、1つの学部に100─200人の教員がいて彼らをマネジメントできるのかという問題があります。教員の組織規模というのも大学の教育改革には重要な観点です。大学はALが施策化された2012年の質的転換答申から8年が経過しています。もっとスピードを上げて教育改革に取り組まないといけません。高校で大学に送り出した卒業後の姿をアセスメントする動きが今後出てくるなかで、高校から「せっかく力をつけて生徒を送り出したのに、入学後の大学教育と結びついていない」と懸念される状況が予想されます。──2020年度は転換期でしたが、今後、高校生を受け入れるうえで、大学はどのような準備をしたらよいでしょうか。ポストコロナでは、ハイブリッドによってオンラインと対面の良いところを活かしていくべきだと言われていますが、それは優等生の回答だと思います。コロナ禍のオンライン授業は、教員にも緊張感があったし、学生も振り落とされないように頑張った。しかし、今後中間層はオンラインに慣れて、ついていくのが難しくなるでしょう。「オンラインなら、いつでもどこでも学べる」と言われて20年が経ち、学ぼうと思えば学べる学習環境は山ほどありましたが、主体的に取り組んだ学生は極めて少ない。このことをもっと考える必要があります。本質的には、オンライン化のような一つひとつの活動よりも、教学マネジメント体制の構築にしっかり取り組み、学修者本位の教育にどう転換していくかだと思います。特に、学部のセクショナリズムが強い大手大学が組織規模をどう捉え、教学マネジメントを実施していくのかは、コロナで可視化された大きな課題でしょう。──最後に、これからの時代を生きる高校生に対してどのようなキャリア展望を持たせるべきでしょうか。将来が見通せないと言うとき、問題は2つあります。1つは「大学で何を学びたいかが分からない」。もう一つは「将来何をしたいかが分からない」。この2つはどちらも絡み合っていてどちらも大事ですが、私は、どんな仕事をしたいかを考えるところから始めましょうと説いています。まずどういう仕事をしたいかを高校生のバージョンでいいので考えるというまっとうなキャリア教育をやるべき。また学ぶ過程でALや探究によって資質・能力を磨き、コンピテンシーを培う。それが叶う大学を選ぶべきだと思います。(文/金剛寺 千鶴子)コロナで可視化された、大学のマネジメント力【参考:観点別評価】 新学習指導要領において、小・中・高等学校の各教科等を通じて、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に評価を整理することとなった。高等学校においては、従前より観点別の評価が行われてきたが、地域や学校によっては、その取り組みに差があった。今回、高等学校における観点別の評価をさらに充実させ、その質を高める観点から、指導要録の参考様式等を改善。(文科省資料より)特集 コロナ×入試改革をどう乗り越えたのか

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