カレッジマネジメント229号
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52DX(デジタルトランスフォーメーション)への関心が産業界のみならず、行政、医療、教育など幅広い分野で急速に高まりつつある。“Digital Transformation”という言葉は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念であり、「デジタル技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ことを意味するものとされている。その後、IT系コンサルティング会社などが用いるようになり、デジタル技術を活用した事業や産業の構造的変革を表す言葉として、ビジネスの世界を中心に広がっていった。その代表格がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やマイクロソフトなどのプラットフォーマーである。これらの企業は新たなビジネスモデルの創造により人々の生活を大きく変える一方で、ディストラプターとして既存の産業や秩序に破壊的影響をもたらしてきた。このようにストルターマン教授が提唱したDXと産業界を中心に盛んに使われているDXが意味するものは必ずしも一致する訳ではない。政府は、わが国が目指す社会をSociety 5.0と呼んでいるが、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」との説明は、ストルターマン教授のDXと重なり合う部分が多い。その日本において、企業の戦略や国の政策にDXが登場するようになってきたのはごく最近のことである。一つの契機となったのが、経済産業省の研究会が2018年9月にまとめた「DXレポート」であり、その提言を受けて同年12月に同省が示した「DX推進ガイドライン」である。同ガイドラインでは、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。その後、2020年7月に示された「経済財政運営と改革の基本方針2020」(いわゆる骨太方針)では、デジタル・ガバメントの断行と並びデジタルトランスフォーメーションの推進が掲げられ、「地域を含む社会全体のDXの実装を加速する」との決意が述べられている。この背景には、1990年代から続く日本経済の長期停滞と先進国中低位にとどまる労働生産性に加えて、コロナ禍で顕在化した社会全体のデジタル化の遅れに対する強い危機感がある。DXが定義の曖昧な流行言葉として、過去の多くのバズワード(Buzz word)と同様に、いずれ忘れ去られるものなのか、それとも日本の企業や社会に根づいていくものなのか予想はできないが、デジタル技術の指数関数的な発展が、ビジネスモデルの創造と破壊を通して社会に大きな変化をもたらし続けていることは確かである。大学を強くする「大学経営改革」DX(デジタルトランスフォーメーション)が大学に問いかけるもの吉武博通情報・システム研究機構監事、東京家政学院理事長リクルート カレッジマネジメント229 / Jul. - Aug. 202193デジタル技術の指数関数的な発展がもたらすビジネスモデルの創造と破壊

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