カレッジマネジメント229号
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53DXへの関心は高等教育の分野でも急速な高まりを見せている。特に、コロナ禍で遠隔授業を余儀なくされた大学において、オンラインやオンデマンドを積極的に取り入れた教育改革への取り組みが本格化しつつある。文部科学省は2020年6月に「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)」を立ち上げ、学修者本位の大学教育を実現するため、サイバーとフィジカルを上手に組み合わせて授業の価値を最大化する取り組みを後押ししている。また、2021年1月に「デジタルを活用した大学・高等教育高度化プラン」の公募が行われ、同3月には申請252件から54件の事業が選定されている。公募要領には、大学等(短期大学・高等専門学校を含む)全体でDX推進に取り組む計画であり、その取り組みによる効果が大学等全体の教育の高度化につながる計画であることが申請の要件として明記されている。大学におけるDXは教育分野だけにとどまらない。文部科学省は、オープンサイエンス時代を先導する「研究DX」の実現に向けた課題として、研究活動情報の把握や研究評価のデジタル化、オープンサイエンス時代の学術情報・研究データ流通を先取りした検討、公募型研究費に関する事務作業の効率化、共用研究施設における各種手続きのデジタル化、研究活動の機械化・遠隔化・自動化、DX人材の育成・確保といった項目を掲げている(2020年12月23日「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」文部科学省デジタル化推進本部資料より)。2021年3月に閣議決定された「第6期科学技術・イノベーション基本計画」においても、「社会全体のデジタル化や世界的なオープンサイエンスの潮流を捉えた研究そのもののDXを通じて、より付加価値の高い研究成果を創出し、わが国が存在感を発揮することを目指す」との方針が示されている。教育研究を支える業務運営全般のデジタル化も急務である。入試・教務・学生・就職、研究支援、図書・学術情報、企画・総務、人事・給与、財務・施設などの業務において、いわゆる「事務」に多くの労力が投入されてきた。事務的処理をデジタル化し、職員の能力を新たな価値創出にシフトさせることは、大学の競争力を高めるためだけでなく、職員個々のキャリア形成のためにも不可欠である。国が政策課題に掲げ、大学が取り組みはじめたDXは、これまでの情報化やデジタル化と何が異なるのだろうか。それを考えるためにもDXの本質をより掘り下げて検討する必要がある。オープンなコンピュータアーキテクチャ「TRON」の開発を主導したことで知られる坂村 健東京大学名誉教授は、「重要なのは、これが『構造改革』という意味を本質的に持っているということで、そうでなければDXではない」と述べたうえで、イノベーションに大事なことはやり方を変える「勇気」だと主張する(坂村 健『DXとは何か』角川新書、2021.4)。筑波大学の立本博文教授と中央大学の生稲史彦教授は、DXによる産業構造やビジネスモデルの変化を考察した共著論文で、日本のエレクトロニクス産業は1990年代にDXがもたらした産業構造の激変にうまく適応できず、国際競争力を大きく落とし、営業利益率を低下させたと指摘する。その変化とは、材料調達から流通・小売まで一つの企業が担う垂直統合型から、それぞれの機能を専門の企業が提供する水平分業型への転換である。加えて、技術や部品の標準化が進み、企業間の関係がオープンなものへと変化してエコシステム型と呼ぶ構造ができあがったという。そして、これまで棲み分けられていた伝統的産業とデジタル産業が融合し、新しい産業を生む未開拓領域が形成されつつあるとし、そのためには、オープンな企業関係とそれを支えるビジョンの提唱が必要と主張する。そのうえで、DXの大きな推進力の一つが「データ」であると強調し、「データを利用して新たな戦略を思考するトップマネジメントレベルでの挑戦と、データを活用できる業務を作り上げる現場レベルでの試行錯誤とを組み合わせ、変革を進めることが必要」と述べている(立本博文・リクルート カレッジマネジメント229 / Jul. - Aug. 2021政策面でも重視されはじめた教育DXと研究DXDXは「構造改革」であり、重視すべきは「オープン」と「データ」

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