カレッジマネジメント229号
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54リクルート カレッジマネジメント229 / Jul. - Aug. 2021生稲史彦「DXの過去、現在、未来」『一橋ビジネスレビュー』2020.8より)。米国では、GAFAに代表されるプラットフォーマーが新たなビジネスモデルを生み出すことで、社会に大きな変化をもたらしながら、急速な成長を遂げてきた。創業から10年以内、評価額10億ドル以上、未上場のテクノロジー企業を「ユニコーン企業」と呼ぶ。GAFAもかつてはその一つであり、米国や中国ではユニコーン企業が次々に生まれている。このような状況が日本で直ちに生じることは考えにくい。その意味からも、立本・生稲両教授の「伝統的産業とデジタル産業が融合し、新しい産業を生む未開拓領域の形成」は、日本にふさわしいDXの一つの形と言える。このような視点は、大学のDXを考えるうえでも多くの示唆を与えてくれる。既存の高等教育システムを全く新たなシステムに置き換えるような大転換が起きることは考えにくいし、それが望ましいとも思えない。学術や教育の分野で築いてきた仕組みと培ってきた知識・経験をデジタル技術と融合させることで、未開拓領域を形成し、社会的要請に適合させることで新たな機能や価値を創出する。あるいは、既存の機能の高度化につなげる。大学におけるDXはこのような目的や理念のもとに進められるべきものではなかろうか。新たな機能や価値の創出として最初に考えられるのは、リカレント教育や生涯学習の機会の提供である。DXがもたらす産業構造や社会システムの変化に伴いリカレント教育はますます重要性を増し、人生100年時代において生涯学習のニーズはさらに増大することが予想される。経済環境や地域事情によって大学教育を受けられない若者への教育機会の提供も大きな課題である。さらに世界に視野を広げれば、日本の大学が果たしうる役割は決して小さくない。これらの教育機会の提供を付加的なものと考えるのではなく、正面に据えて、大学の使命と役割を問い直す必要がある。2018年11月の中央教育審議会答申に謳われている「多様な学生」の意図はそこにあり、デジタル技術はその可能性を広げてくれている。研究面でも、これまで培ってきた研究方法や成果とデジタル技術を融合させることで、大学や国境を超えた共同研究、学問領域を超えた学際的研究、産学官連携、地域・社会課題の解決などをさらに活発に展開することが容易になり、学術的意義や社会的価値の高い成果の創出の可能性も広がってくる。産学官協働拠点の形成や研究成果を活用した起業など、これまで期待されながらも結果を出せなかった活動をより事務的処理のデジタル化による高付加価値業務へのシフトデータの最大活用による諸機能の高度化と新たな価値創出 etc.学修者本位の教育学びの質の向上 etc.学際的研究産学官連携教育 etc.オープンサイエンス時代を先導する研究    etc.リカレント教育生涯学習 etc.教育DXDXによる教育の機能拡張大学におけるDXの目的と構造DXによる研究の機能拡張DXによる研究の高度化DXによる教育の高度化DXによる経営の高度化研究DX経営DXこれまでの蓄積とデジタル技術を融合させて新たな機能・価値を創出

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