カレッジマネジメント229号
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55リクルート カレッジマネジメント229 / Jul. - Aug. 2021効果的に進めることもできるであろう。DXによる既存の機能の高度化に関しては、教育の高度化、研究の高度化、経営の高度化が主たるテーマとなる。既に述べた「Scheem-D」や「デジタルを活用した大学・高等教育高度化プラン」はその名のとおり教育の高度化を促す施策である。後者の事業が支援する取り組みは「学修者本位の教育の実現」と「学びの質の向上」である。そして、前者の取り組み例として、学修管理システム(LMS)を導入して全カリキュラムにおいて学生の習熟度等を把握、蓄積された学生の学修ログをAIで解析し、学生個人に最適化された教育(習熟度別学修や履修指導等)を実現、後者の取り組み例として、VRを用いた実験・実習の導入、開発した教育システムやデジタルコンテンツ等の他大学との共有・活用、などが挙げられている。また、第6期科学技術・イノベーション基本計画では、「大学・高等専門学校における多様なカリキュラム、プログラムの提供」の項が設けられ、学位プログラム、ダブルメジャー、全学的な共通教育から大学院教育までを通じて広さと深さを両立する新しいタイプの教育プログラム(レイトスペシャライゼーションプログラム等)などが示されている。従来の学部・学科、研究科・専攻といった枠組みでは対応が難しいこれらの改革にどう取り組むべきか。ビジネスの世界ほど大規模ではないものの、大学にも既存の枠組みを超えた新たな発想に基づく構造改革が求められている。そして、学修者本位かつ個々の学修者に最適化された教育を実現するために、デジタル技術の活用は不可欠であり、これによって収集された多様なデータを解析することで教育の質の向上につなげるといった取り組みを日常的な教育活動に定着させていく必要がある。DXによる研究の高度化については既述の範囲にとどめ、最後に経営の高度化について述べておきたい。教育と研究は健全な経営を基盤として初めてその機能を維持し、高度化させることができる。ヒト、モノ、カネ、情報という経営資源を確保し、大学が進むべき方向を定めて、適切にこれらの資源を配分するのが経営の役割であり、その難度は高まり続けている。そのためにも経営を持続的に高度化させていかなければならない。DXによる経営の高度化とは、事務的処理のデジタル化を通して人的資源をより付加価値の高い業務に振り向けるとともに、データを最大限に活用することで、大学の諸機能の高度化と新たな価値の創出を促す取り組みである。デジタル技術が社会や組織に大きな変化をもたらすなか、大学が従来の組織・プロセス、仕事の仕方や発想から脱却できなければ、厳しさを増す環境において淘汰を免れないだろう。このことは組織だけでなく、そこで働く構成員も取り残されることを意味する。自校の中だけでしか働けない人材ばかりでは、厳しさを増す大学間競争に打ち克つことはできない。個々の成長を促し、他校でも、さらには他業種でも活躍できる能力が身につくように、場を整え、機会を与えるのが経営の役割である。DXによる経営の高度化は、大学という組織にとってもその構成員たる個人にとっても必須のテーマである。変化への抵抗は、社会、組織、個人のそれぞれのレベルにあり、それが変革を難しくしていることは周知の通りである。特に大学には変化への根強い抵抗がある。その大学でDXに取り組むことが如何に難しいことかは容易に想像できる。トップがDXの本質を理解し、強い信念と覚悟を持って旗を振り続けられるか、教職員が自分自身の問題として捉え、積極的に活動に参画するか、デジタル技術と学内業務を理解する人材が得られるかが、成否を分けるポイントと考えられる。人材・資金面で制約のある中小規模校での取り組みのあり方、立本・生稲論文が重視する「オープン」と「データ」の大学DXにおける意味づけなども重要な論点である。これらについては改めて論じることとしたい。DXによる経営の高度化は組織にとっても個人にとっても必須のテーマ大学にも既存の枠組みを超えた新たな発想に基づく構造改革が求められている

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