10リクルート カレッジマネジメント230 │ Oct. - Dec. 2021「思い」です。しかし、その思いがあっても、大学を発展させていくための経営にうまく繋げることは難しいと思います。パーパス経営を実践する企業においては、その共通点は、「ワクワク」「ならでは」「できる!」の3つの共感要件だと言っています。当たり前のことをやっていても生き残れないし、ゾンビのようにただ生き残ること自体には意味はありません。大学においても、特に「ならでは」の価値創出のこだわりがあることや、思わず心が「ワクワク」するような未来の目標をどう作るのかということが経営に求められていると思います。企業でも、創業の理念はもちろん大事ですが、そこのみに固執することは懐古趣味の域。そうではなく、その志や思いを未来に飛ばして考える必要があります。どこまで、未来の「ならでは」話、未来の「ワクワク」話にするかが経営に必要な想像力なのです。大学も同様で、その学校が本当にやりたいこと、例えば地域に寄り添った教育をするとか、エッセンシャルワーカーを世に送り出すとか、イノベーションの創造に拘るとか、創業の志の本質を純粋化・再定義し、過去形にしない努力が必要です。私は企業に対して、パーパスを2050年の未来に飛ばしたとき、自社が生き残っている存在価値とは何かについて想像力を働かせて考えるというワークショップをよく実施しています。同様に大学においても、未来を描く取り組みをやるべきで、しかもそれは教員だけでなく、OBやOG、在校生や高校生、あるいは社会人や留学生等も交えて考えてみると面白いかもしれません。特に、地方大学は今の延長線上で何とかなるではもはや済まされない。今後もその地域にある理由や役割は何かについて、考えることは大きな意味があるだろうと思います。改革はカリスマ的経営者だけの仕事ではない――そういった未来のストーリーを描く作業は、誰がどのような体制で行うのが良いのでしょうか。経営的な発想ができる人、大学の独自性について徹底的に考え、大学の個性について悩んで考え抜いてる人達が改革派として、集中的に取り組んで火をつけていかないといけないと思います。アカデミックなバックグラウンドの方が中心になってもよいし、企業出身の人でも発想力や熱意のある人をヘッドハントしてきて推進するのでも構わないと思います。いずれにせよ、その布陣の決定は改革を進めるうえで非常に大事な要素であると思います。これは企業経営とも似ていて、全ての企業においてカリスマ的経営者の存在がいなければ改革できないかと言えばそんなことは全くない。企業の中で、自社を本当に愛している人が、その企業らしいストーリーを作ることで蘇るという事実を私は何社も見てきました。特に大企業よりも中小企業のほうが磨くポイントが絞られていて改革が進みやすいのですが、大学においても、総合大学より、小規模大学が「これしかない」というものを見つけて磨くほうがやりやすいと言えるかもしれません。市場ニーズの多様化が進み、スモールマス(縮小したマス市場)という捉えられ方が行われる今、大学も何かに対するこだわりや特殊性を持った小さなコミュニティになっているということが大事。「ここが自分の居場所だ」と学生が強く感じられるものがブランド価値だと思います。私は、首都圏の中堅中小企業向けに「『志』発掘プロジェクト」(図4)といった講演を実施することがあります。そこでは、例えば、一見何の変哲もないようなケーキ店でも、クリーニング店でも、清掃会社でも、話をしていくと、言語化できていなかったり、ストーリー化できていないものの、その会社らしいこだわりが必ずあるものなのです。大学においても、仮に今までの大学の基準や偏差値軸では評価されてこなかった大学でも、そこに通う学生には既存のパスとは異なる、自分らしい生き方を選べるという強みがあるはずです。目の前の学生と対話するワークショップをすることで、大学の魅力を引き出せると思います。大学の存在価値が明確になって初めて、社会課題の解決ができる。
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