カレッジマネジメント230号
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15リクルート カレッジマネジメント230 │ Oct. - Dec. 2021がない限り、どんなに社会課題の解決に貢献する教育を提供していて、また大学として社会課題解決に力を入れていても、付加価値を生み出せない。大学はキャンペーンスローガンをポップに作るのでなく、出自と未来と個性を真剣に掘り下げていく必要がある。逆に学生は、実態に裏打ちされた大学らしさとは何かを徹底的に見抜く必要がある。そのために大学がとるべき行動を、少し具体的に紐解いてみよう。上策は、学生に見抜く労を掛けさせないだけのブランド体験を、全方位で実現することである。中策は、学生が見抜けるだけの資産を用意するだけで満足すること。そして下策は、学生に「実態のない表面的な表現だけが踊っている」と見抜かれるブランド表現に終始すること、である。金魚の集中力は9秒、人間の集中力は8秒、と言われているこの時代において、学生が直感的に大学のブランドを感じられる体験をクリエイティブに提供することが、ブランディングである。ここで一つ大切なのは、「伝える」から「体験できる」の提供に軸足を移すことである。全チャネルでの役割分担から包括的体験を総体として設計し、その実現に個々のチャネルを尖らせるオムニチャネル※が必要になる。デジタル体験もリアル体験も当然必要であり、そのなかで体験の結果「感じる」ことをブランドから、つまり『らしい』から演繹して設計する。これこそが求められる。もちろん、調べてもらえれば分かるだけの実態を創ることから全てが始まるのは言うまでもないが、そこで止まってはならない。まして、ポップでキャッチーだが中身のない広告宣伝だけを繰り広げていても、人生の大きな一部となる大学の選択をそこにかける学生はほとんどいないだろう。次に「実装力」に着目しよう。SDGsネイティブが主体となった大学における課題の一つは、それを発揮する場が学外になってしまうことだろう。もともと学業の場としての大学は、即ち実践の場ではないことが主流であった。しかし、例えばビジネススクールがベンチャーキャピタルファンドを設立することで起業という実践を近づけているように、学外に限定されない実践の場を形作れるか、という論点が一つある。学生の心を紐解けば、「お勉強」だけを求めていないことは自明だろう。だからこそ、学内や学校との接点の中に社会課題解決機会を実装することで、「社会課題解決がブランド的でありえる」実態作りが強みとなり得る。社会課題解決だけであれば、NPOでもNGOでもCSV企業でもできる。だが大学を機会提供の場と捉えるのであれば、学外に生徒を導く単純な通路になるのはもったいない。「らしい」コンテキストの中で「社会課題解決」に取り組む機会の提供こそが、求められている実装力である。全ての企業は、その存在価値に社会課題解決への貢献がなければ、今後は真っ当なステークホルダーからは相手にされなくなる。現時点では投資家から影響が大きく、次にコミュニティーとのより良い共生の影響も無視できない。これに加えて、SDGsネイティブの購買力と労働力としての重要性が増すことで、社会的存在意義がない場合は、事業上の競合優位を築けなくなると想定されることである。だからこそ、多くの大学はSDGs教育に力を入れている。しかし、SDGsを行っているだけでは競合優位に繋がらない。そこに「人」をインストールし、「らしい」を打ち出していってほしい。そして学生は、そのイメージをしっかりと捉えてほしい。それが、結局は自分にとっての価値になっていくのだから。SDGsを行っているだけでは競合優位に繋がらない第1特集●大学ブランド 未来の指標※webサイト、メール、スマホアプリといったオンラインの接点と、リアルなオフラインの接点も含めた様々なチャネルを連携し一環した顧客体験を提供しアプローチする戦略

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