カレッジマネジメント230号
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リクルート カレッジマネジメント230 │ Oct. - Dec. 2021東北芸術工科大学は2018年、中山ダイスケ学長の就任を機に、「絵がうまい子が入るのが美大ではない。アート・デザインを通じて社会課題を解決していくのが美大」とする新コンセプト『超・美大(美大を超えていこう)』を掲げた。山形という地方都市で、なぜ美大が本業である教育に社会課題の解決を定めるに至ったのか。「地域は困っていて、私が入職した2007年頃には、既に多くの課題の依頼と進行中のプロジェクトがあり、『この大学は面白い』と教学のど真ん中に入っていった」と中山学長。地域や行政と一緒に考えることが常態化するにつれ、「学生が挑む授業の課題をできる限り社会から頂き、社会課題の解決を教育の中心に据えよう」と考えるようになっていく。オープンキャンパスに来た高校生の併願先が、美大ではなく山形大学、東北学院大学等の一般大学だったことも契機だった。「自分達の大学が置かれたポジションは、芸大・美大群の中での競争とは全く違うものなのだと認識した時期で、高校生に向けたプロモーションの転機でもあった」と振り返る。学生数約2400名、芸術学部とデザイン工学部の2学部を持つ同大学の重要な教育の特徴は、教員のほとんどが現役で活躍するクリエイターである点だ。中山学長は「山形県は日本が直面する社会課題に10年早く向き合っている“課題先進県”。山形のニーズと本学のポテンシャルがぴったりマッチした」と語る。実際にどのような課題に対峙しているのか。例えば高齢者が毎日集まる場所なのに分かりにくい院内サイン(図1)。山形大学医学部附属病院から依頼を受け、山形大学医学部の学生と協働で7~8名のチームを組み、誰もがスムーズに目的の場所までたどり着けるサイン計画を立案した。同病院は地域で使いやすいと評判になっている。中心市街地が衰退し、郊外のショッピングモールが賑わうという地方都市の課題にも、中心市街地では、山形大学、自治体、住宅公社と連携し、空き家等を準学生寮にリノベーションする「準学生寮プロジェクト『山形クラス』」が進行中だ。両大学の新入生の7割が県外出身者であり、300~400室規模を目標に街中に新しい学生街を造ることで、消費活動やコミュニケーションを創出する社会実験である。反対に郊外では、地方色を出したい大型ショッピングモールとご当地グルメを開発する等している。20東北芸術工科大学社会課題解決に取り組む大学事例高齢化、過疎化等、様々な社会課題を感性とロジックの両面から解決する「超・美大」社会課題の解決で美大を超える“課題先進県”で現役プロと挑むCase Studies_3中山ダイスケ 学長図1カラフルに色分けされ、受診する科が一目で分かる院内サイン。患者ごとに目的地を示す「手持ちフォルダー」を作成し、運用も改善した。

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