33リクルート カレッジマネジメント230 │ Oct. - Dec. 2021企業は大学をどう見ているのでしょうか。宮内:企業と一般社会では認識に大きなギャップがあると感じています。企業というのは使いやすい人材、素直な人材を求めていると思われがちです。もちろんそうした側面がないわけではなく、冒頭に述べたように、これまでの採用実績がそうなっていた感も否めません。しかし実際には、企業が置かれている環境はグローバル化によって厳しくなっており、各社は生き残りをかけて戦えるクリティカルシンカーを求めています。であるのに、偏差値の高いところで素直に育ってきた学生が歓迎されると世の中は思っている。そこに大きなギャップがあります。その一方で、新学習指導要領を見ると、これからの人材に必要な力は「問題解決能力」や、問いの立て方や、解のない問題にどう立ち向かうかであると書いてある。要はどうやって頭を使うかという方向に舵を切っている。日本の教育理念は非常に正常化してきていると思います。ところが、それにまだまだついていけていないのが、もしかすると大学かもしれません。社会に対峙して課題解決のアプローチを具体的にとれること、そのために自分の問いを軸に学ぶこと。日本の大学にはこうした学びがまだまだ少ない。こうしたカルチャー全体を変えていかなければならないのかもしれません。─人事の現場の偏差値重視の採用を変えていくための方法はあるのでしょうか?宮内:経済同友会の会員企業にはクリティカルシンキングができる学生を採用してほしいと伝えています。そのほか、企業のエントリーシートに日経TEST、ニュース時事能力検定の結果を書く欄を設けてくれと訴えています。就活に必要となれば学生も勉強して新聞を読むようになる。また、「読んでいる新聞はThe New York Times、Financial Timesですか?」と質問する。そうするとその新聞を読むようになる。こういう誘導の仕方は企業のほうからできる話だと思います。坂東:私も女子学生が企業を選ぶときは、初任給や育児休業だけでなく、きちんと自分を人材として「期待」してくれるか、ちゃんと責任のある仕事で「鍛え」てくれるか、そして「機会」を与えてくれるか。この3つの「き」のある企業を選びなさい、と言っています。企業を変えるインパクトとして学生ができることは少ないですが、それでも、初任給やきれいなオフィス環境だけではなく、やはり自分を人材として期待して育成してくれる企業が良いのだと学生たちが選択すれば、企業側も変わってくるのではないかと期待しています。─日本には800の大学があり、個性がなければ生き残れないと言われています。社会から評価されるようになるにはどうしたらいいのでしょうか。坂東:日本人は大学入試改革ばかり熱心ですが、卒業時のディプロマにも必要な項目を明確にリクエストしてもいいと思います。英語で言えばTOEIC©は最低650スコアなければ卒業できない等、ハードルを要求することも必要なのではないでしょうか。海外にはそうしたハードルを設けている大学も多くあります。卒業要件を客観的な視点で厳しくする。外部に見える化することによって学生も変わるし、この大学の卒業生はこの水準を全員クリアしているという確かなリアリティとなる。そうした客観的な学修成果をもとに、企業の評価も変わるのではないか。評判やブランドだけではなく、その裏づけとなる客観的な基準を大学に求めてほしいと思います。─それが積み重なってブランドができるわけですね。卒業時の学生を客観的に評価する方法は企業の採用時にも難しいと思うのですが、点数化以外に何か評価する基準はあるのでしょうか。坂東:今は就職試験段階で大学の成績を求める企業は少ないですが、大学ではFD活動も盛んに実施しており、成績は厳正につけているので、学校の成績も企業の方に参考にしていただきたい。社会課題に挑戦する教育を拡充し、どんな学びを積み重ねたか学生個人のポートフォリオで見えるようにしていきます。そうした活動実績・成績評価が企第1特集●大学ブランド 未来の指標
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