カレッジマネジメント230号
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40リクルート カレッジマネジメント230 │ Oct. - Dec. 2021コロナ禍の高等教育業界を席巻したのはオンライン教育であった。遠隔授業等は長らく議論されていたテーマだったが、三密を避けるためにオンラインを用いたオンデマンド型やアーカイブ型の講義が半強制的に始まった。初等中等教育のGIGAスクール構想や、学習成果の可視化という文脈で重要視されるLMS等と合わせて、教育に係るDXについては概ね読者もイメージされることと思う。しかし、DXとは教育の方法論やシステムに閉じた話ではない。デジタルを前提にした経営戦略を描き直すことこそがDXの真髄である。そうした観点をご提供頂くべく、経済産業省(以下、経産省)商務情報政策局情報技術利用促進課の田辺雄史課長に、2018年のDXレポートを皮切りに経産省が打ち出す政策についてお話を伺った。経産省の政策を時系列で整理したのが図1である。こうした施策の背景にある課題感は何だったのか。田辺氏は、日本においてITとはコスト削減ツールの1つであり、日本のビジネスモデルは既存のやり方を改善することが前提という風土があり、「ITとは今あるものをより良くするツールである」、あるいは「あまりコストをかけるとコスト削減にならないので、なるべく安く作ろう」と考える傾向があると話す。「だから、古くなったレガシーシステムを大事に使い、『動いていればいい』と思ってしまう。しかし、長期で使うほど設備投資の減価償却が進み、製品の単価が安くなっていくという考え方が、そもそもITには通用しません」。よって、レガシーシステムを残しておくと逆に新しい変化に対応できない問題が顕著になる。日本では、そうした新たな価値を生まないシステムの維持メンテナンスにデジタル予算の8割以上がかけられており、新しいビジネス創出には2割程度しか使われていないのが現状だという。「本来価値創出や経済成長のドライバーであるはずのデジタル予算の2割しか本来の意義に振り分けられていないというのは大きな問題です。だから、まずは古いシステムを近代化してアップデートできるようにする必要がある。しかし、そこで認識が止まってしまう経営者も多い。DXの本丸は、その後価値創出のためにデジタルをどう使うのかという経営戦略そのものの立案にあります」。では、DXレポートを起点に、順を追って概要を見ていこう。新たなデジタル技術によるゲームチェンジが起こっている現状を示し、前述したレガシーシステムの弊害からDXできないと2025年までに毎年最大12兆円の経済損失が生じるとする、通称「2025年の崖」を問題提起したこのレポートはセンセーショナルであった。合わせて、崖を生じさせないためのDX実現シナリオとして5つの施策を提唱している。これらが以降の施策にどうつながったのかを整理したい。対応策① DX推進システムガイドラインの策定対応策② 「見える化」指標、診断スキームの構築DX推進の指針として、2018年12月にDX推進ガイドラインが、2019年7月にはDX推進指標が策定された。前者DXに関する経済産業省の政策動向第2特集 DXによる新たな価値創出田辺雄史経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長DXレポート

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