リクルート カレッジマネジメント230 │ Oct. - Dec. 2021「改革」の名の下に組織構造や制度を変えても、パフォーマンスが高まらず、確たる成果に繋がらないという状況は、企業をはじめあらゆる分野で起き得る問題である。そして、このようなことが繰り返されると「やはり最後は人。意識が変わらない限り、組織は変わらない」となり、「意識改革」が叫ばれるようになる。大学も、近年は改革を行うこと自体が目的化しているのではないかと思われるくらいに、何かを変えることに多大なエネルギーを使っている。そして、改革が評価と結びつき、組織構造を変え、新たな制度を導入することが優れた改革と見なされる傾向も強まっている。国立大学法人評価において、教育研究組織の見直しや人事・給与マネジメント改革等が重視されるのはその象徴でもある。その一方で、「改革疲れ」が指摘され、改革のあり方自体を疑問視し、その弊害を危惧する声も増しつつある。筆者自身、国公私立大学で改革に携わる中で、組織構造や制度を変えることの必要性を認識しつつも、形を変えることそれ自体が目的となり、構成員の意識変革や行動変容に繋がらないことに強い危機感を抱いてきた。その背景には、組織の本質に対する理解が不十分であること、改革の必要性と改革が成し遂げられた時の状態が共有されていないこと、改革の方法と手順を十分に検討することなく場当たり的な取り組みが繰り返されていること、等の問題があると思われる。企業経営においても、改革が成功するための確たるセオリーがあるわけではなく、経営学等の学問が貢献できるのも戦略、組織デザイン、組織行動等の要素にとどまる。また、大学に改革を促す政策当局も、自ら改革を成し遂げた経験を有するわけではない。このような状況の中で、「形あるもの」の改革だけを追求すれば、初期の段階で一定の効果も見られるかもしれないが、徐々にそれも薄れ、弊害が目立つようになる。大学もこのことを十分に意識して改革を進めなければならない。改めて、組織とは何か、その本質について考えてみたい。バーナード(Chester I.Barnard)は、組織を「2人以上の意識的に統合された活動と諸力の体系」と定義した上で、「人々は組織の構成要素ではなく、組織に活動やエネルギーを提供する存在」と述べている。そして、協働システムである組織が成立するための条件として、共通の目的、協働への意欲、コミュニケーション・システム、の3つを挙げる。また、サイモン(Herbert A.Simon)は、意思決定論において、「組織の重要な役割の一つは、正しい意思決定のために必要な情報を提供することのできる心理的な環境を確立して、その環境の中に人々を置くこと」と述べ、そのために必要な手段として、分業の体系化、標準的運営手続きの58Innovating University Management大学を強くする94「大学経営改革」「形なきもの」をどう変革するか──考え方と組織文化のバージョンアップ「形あるもの」の改革と「形なきもの」の変革組織の主体である「人」の判断・行動・協働の質を高める吉武博通情報・システム研究機構監事 東京家政学院理事長
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