59リクルート カレッジマネジメント230 │ Oct. - Dec. 2021いて、その進化に向けて日夜改善努力が続けられているのです。”(以上トヨタ自動車のウェブサイトより)企業で培われた方式や考え方がそのまま大学にあてはまる訳ではないが、国や社会に促されて改革を繰り返すよりも、「日々改善」の考え方の方がより大学に相応しいように思われる。また、「よい品(しな)よい考(かんがえ)」を大学に置き換えると、質の高い教育研究は、教職員の「よい考(かんがえ)」の上に実現すると考えることができる。考え方を良し悪しで評価することは慎重であるべきだが、教員についていえば、学問に向き合う姿勢、学修者本位の教育への取り組み、他の教員や職員との協働等に個々人の考え方が表れ、それが教育研究の質を左右する面があることは確かである。職員についても、新たな問題が生じた時に、自分の仕事ではないと避けようとする傾向が強ければ、問題は放置されたままである。それに対して、進んで手を挙げる職員がおり、周囲の協力も得られれば、問題は解決し、その経験を通して個人にも組織にも、知識や技能が蓄積されることになる。規則や前例等を盾に改善や変革に背を向けることもよく見られる光景である。「できない理由を並べるのではなく、どうすればできるかを考える」習慣を根づかせることも大学の大きな課題である。本稿では「考え方」を、心的傾向、考え方、思考様式等を表す「マインドセット(mind-set)」とほぼ同義で用いているが、特に重視したい要素は次の5点である。その1つが、自身の人生における仕事の意味づけである。自分にとって仕事が如何なる意味を持つのかを考え、自ら主体的にキャリアを形成していくことが益々重要になってきており、これが全ての出発点になると考える。エドガーH.シャイン(Edgar H.Schein)は、「キャリア・アンカー」という概念を提唱し、自分の能力、仕事を通して何がしたいのか、自分は何に価値を置いているのかを自分自身に問いかけることで、キャリアの方向性を明確にする確立、権限体系の整備と階層組織、コミュニケーション経路の特定、訓練、の5つを挙げる。両者に共通するのは、組織の主体は「人」であり、人が活動やエネルギーを提供するために、あるいは正しい意思決定を行うために、明確な共通目的、組織・業務運営システムの設計、教育訓練等が必要と述べている点である。判断し、行動し、協働するのは人であり、それぞれの質を高め、目指す方向に力を結集し、効果的・効率的に組織目的を達成する。改革はこのような状態を実現するために求められるのであり、組織構造や制度等の「形あるもの」の改革が目指すゴールもここにあることを心に留めておく必要がある。このような観点から現状を眺めた場合、多くの大学は、依然としてゴールから遠い状態にとどまっているように見える。「形あるもの」の改革に取り組んでいても、それが考え方や組織文化の変革をもたらすまでに至っていないと考えられる。組織の主体である人の判断、行動、協働の質を高めるためには、知識や技能等の能力を高めるだけでなく、より望ましい「考え方」を根づかせていく必要がある。日本を代表する企業であるトヨタ自動車は、カンバン方式に象徴される生産方式を惜しげもなく公開し、世界中の多くの企業がそれを学び、導入を試みるが、トヨタと同じ域に達する企業は皆無に近いと言われている。方法や方式は学べても、その根底にある考え方、いわゆる「トヨタ生産方式の思想」を根づかせるのは至難の業ということだろう。同社は、トヨタ生産方式を「ムダの徹底的排除の思想と、造り方の合理性を追い求め、生産全般をその思想で貫き、システム化した生産方式」とした上で、次のように述べている。“「日々改善」、「よい品(しな)よい考(かんがえ)」の思想を実践することで、トヨタ生産方式は世界に名の知られる生産方式に進化しました。そして、現在も全生産部門にお「トヨタ生産方式の思想」から学ぶこと自身の人生における仕事の意味づけが出発点
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