カレッジマネジメント231号
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10リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022雇用システムを分類するために日本的な「メンバーシップ型」と区分けした表現です。企業は基本的にはジョブの集まりで、日本以外では当たり前の考え方であり、日本にて普及している言葉になります。欧米で一般的な「ジョブ型」は遂行すべき職務を明確に提示して雇用契約を結び、職務内容の変更には社員の同意が必要であり、これまで企業にあった人事権も放棄せねばなりません。「メンバーシップ型」の雇用契約に職務は明記されず企業によって定めていたことからすると、「ジョブ型」での雇用契約をそのまま採用できるかどうかは慎重に議論されるでしょうし、本来の「ジョブ型」の導入が急激に進むとは考えにくい状況です。経団連も単純に「ジョブ型雇用」を推奨しているわけではありません。「それぞれの企業が自社の雇用のあり方を見直し、企業戦略に合ったシステムを構築することが重要」と経団連は提言しており、その実現に向けた手段のひとつとして「ジョブ型雇用」を提唱しているに過ぎないのです。話が少しそれますが、近年、産業界において高い関心を寄せられている人事関連のキーワードに「戦略人事」という言葉があります。「戦略人事」とは、企業の経営戦略に深く結びつき、その実現に向けて効果的な人材マネジメントを行うべきという考え方。この考え方に基づいて日本の先行きを占えば、海外拠点と共通の雇用制度を必要とするグローバル企業や、DX を進める企業での技術職採用等、経営戦略に明確に結びつけられる職務においては「求める要件を明確化した採用」については導入が進むのではないでしょうか。小林:では、「ジョブ型雇用」の導入は当面限定的で、新卒採用のあり方への影響はあまりないのでしょうか。増本:先ほどお話した通り急激な変化はないかもしれません。ただ、注視したいのは、「戦略人事」を重視したり、即戦力をより求める環境になっています。大手においては中途採用比率を高めるという動きもあります。そうなると、新卒採用においても経営戦略の実現に向けて人材を確保するには、「求める人材像」を明確化し、ターゲットを絞って採用を行うのが効率的であり、この傾向は強まるでしょう。そのひとつの表れとして、「特定人材をターゲットとした就職情報サイトやサービスを利用した企業」は過去5 年増加しており、「21年卒採用を実施または実施予定」の企業のうち約2割とある程度の割合を占めています(※3)。また、22年卒採用実施企業に「採用の認知形成・広報の手段」を調査したところ、「スカウト・逆求人サービス」を利用した企業は前年比3.0 ポイント増の14.5%でした(※1)。小林:新卒の「スカウト型採用」は広がるのでしょうか。増本:職務を限定して採用するメリットがデメリットを上回ると実感する企業が増えれば、広がっていくでしょう。組織の膨大な職務を分解して職務ごとにその内容や、そこで求められる能力やスキルを言語化・提示するというのは難度が高く、企業にとってかなりの負荷です。だからといって、これまでのようにポテンシャルを重視した新卒一括採用だけを続けていては、専門志向の学生に魅力を感じてもらえず、企業間競争の「戦力」となる人材を獲得できない。そうした危機感を持つ企業は今後さらに増えるでしょうから、「スカウト型採用」に限らず、入社後の職務を何らかの手段で限定し、人材要件を定めた新卒採用は広がっていくと思います。小林:現在、多くの大学が「学修成果の可視化」に本腰を入れて取り組んでいます。人材要件を定めた新卒採用を行う傾向が出てきたことに伴い、選考における人物評価に当たり、企業が従来よりも学修成果を重視する流れは見られますか?増本:データサイエンス等の理系の先端的な学部あるいは4論点新卒採用の人物評価と「学修成果の可視化」の関係性は?

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