カレッジマネジメント231号
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17リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022さて日本企業においてジョブ型雇用が一般的になると何が起こるのだろうか? ジョブ型雇用とは、ジョブを介した会社と個人の労働市場取引である。市場取引をするのだから仕事内容を明確にしたうえで、職種別の採用をすることが普通になる。場合によっては職種別に報酬水準が変わるだろう。職種別採用になることで採用の個別性も進む。また、長期的には高度なエンプロイヤビリティーをベースにした人材流動化が進み、新卒採用の位置づけが優秀人材と巡り合える一期一会ではなくなるので、恐らく採用タイミングや入社タイミングについても多様化が進んでいくことだろう。このような文脈の中で就職における大学の専門教育は変わらざるを得なくなる。今までは職種を限定しない一括採用であったため、具体的な専門スキル・専門知識よりも、一般的な地頭や柔軟性等の基礎能力が求められた。基礎能力は、書類・オンラインベースの適性試験や面接で確認ということになるが、スクリーニングの際は基礎能力の代理指標として大学名がものをいった。しかし、これからは違う。職種別採用になると、事業運営に必要な専門能力の付与を企業は大学に求めることになる。学生の基礎能力も潜在力を見る指標として重要だが、それに加えて専門能力・専門スキルのレベル、即ち大学教育の質が就職の際に評価されるようになるのだ。言い換えると、大学における高度専門教育により、各個人がどれだけの専門スキル・専門知識を身につけることができるかが、就職活動において採否を決める鍵になりつつあるといえる。現在は就職における大学教育の重要性が高まり始めるタイミングだ。なお、学問の領域によってはその性質上、産業界との直接的な結びつきが強いケースと弱いケースがあり、産業界に相対的に近い、経営、経済、法律、工学、理学、薬学等の分野では、変化の必要性は高いだろう。大学は研究機関であるとともに教育機関としての側面を持つ。ジョブ型雇用という文脈の中で教育機関としての大学は、企業が必要とする職種を担うことができる人材の供給者としての役割が求められる。これを実現するにはいくつかの要件を満たす必要がある。第一に、企業が必要とする人材を認識する能力を高めることだ。そのためには、学問分野と関係性が強い企業とのリレーションを強くし、必要とされている具体的な職種に関する情報収集が重要だ。先端技術を扱っている学部では、企業から必要な職種を調査をするだけでなく、社会に影響を与えうる有望な技術から、これから求められる人材を予測することができるかもしれない。第二に、必要とされる人材を輩出するために、産業界のニーズに合わせて素早く教育プログラムを再編する能力を持つことだ。再編の程度は学部・学科・コースレベルのこともあれば、カリキュラムレベルのこともあれば、各講座レベルのこともある。その参考情報として学生からカリキュラムや授業に対するフィードバックを受けることも有用だろう。さらに、再編した教育プログラムを提供するために、必要に応じて講師陣を再編することも重要だ。ただ、日本の大学は日本企業と同様に環境変化に対応し、自らを変化させることが得意ではない。カリキュラムに合致した講師陣を集め、また、時には代謝させる必要が出てくるが、そのような経験・スキルは高度専門教育機関にはあまり無いように思える。これらは非常に高いハードルだが、この変革無しでは、徐々に就職が悪くなり、学生の質が落ち、大学の格自体を落としてしまうだろう。第三に大学と企業間の人材の往来を盛んにすることだ。欧米、特に北米ではプロフェッショナルスクールと産業界のつながりが強く、双方向に人材交流が行われている。この人材交流は、相互理解や緊密な協力関係につながり、大学が産業界に有為な人材を供給するための基盤となるだろう。日本企業がメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への変革を進める最大の理由は、環境変化に対応すべく、雇用形態を変え、オープン化し、人材の流出入とリスキル・スキルアップを促すことにあるが、高度専門教育機関においてもその問題の本質と求められていることは同じなのではないだろうか。高度専門教育が就職に直結ジョブ型雇用は高等教育機関にも必要School to Workこれからの就職を俯瞰する第1特集

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