カレッジマネジメント231号
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36リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022――昨今は「学生の多様性」が重要だと言われ、大学に「社会人の学び直し」の機能も期待されていますが、未だ実現途上で模索が続いています。そのなかで、吉見先生が著書の『大学は何処へ』で指摘されたように、通信制大学は学生の多様性を実現しており、しかし、その取り組みが広くは共有されていません。この実情を踏まえ、そもそもなぜ多様性が必要なのか、また高等教育機関は通信制大学から何を学びうるかを、ご教授頂けないでしょうか。まずはじめに、「学生の多様性を実現する通信制大学」というテーマ設定を頂きましたが、通信制大学は必ずしも「最初から多様性を目指していた」わけではありません。通信制大学の特性からもたらされた結果が、学生の多様性なのです。『大学は何処へ』でこの点に触れたのは、一般の通学制の大学にはその特性がないことを浮き彫りにしたかったからであり、そこに日本の大学の問題点があると感じているからです。通信制大学の特性とは、入口のハードルは非常に低く、出口の管理は厳密であることです。入口については、入学資格があればほぼ試験なしで入ることができます。また、通学制の大学に比べて時間や空間の制約が少ないので、働いている人でも、どの地域に住んでいる人でもその門を叩くことができます。しかしながら、入るのが簡単であれば出るのも容易かというと、そうではないのです。通学制の大学の卒業率が80%以上であるのに対し、通信制大学の卒業率は15%程度。入学者のうち卒業まで至るのは、10人に1人か2人というほど、出多様性を生み出す通信制大学の特性とは多様性のある共同体の実現が創造的な学びや持続的な大学経営の学びの鍵になる「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」において目指すべきとされた「学生の多様性」。しかし現実の姿は多様性とはほど遠い。そもそもなぜ学生の多様性が必要なのか、その実現を阻んでいる壁は何であるのか。元東京大学副学長で、近著『大学は何処へ』(岩波新書)において通信制大学に注目された吉見俊哉氏にお話を伺った。インタビューInterview長く学習専門誌の編集長を務め、取り上げてきた3000人以上の事例をもとに学習者の立場から提言する。文部科学省等の各種リカレント教育推進事業で有識者委員を歴任。(インタビュアー)リクルート進学総研主任研究員(社会人領域)乾 喜一郎東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。2004年より現職。2006~08年度に東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長、2010~14年度に東京大学副学長等を歴任。中央教育審議会大学分科会等において積極的な発言を続ける。大学の課題や将来像に関する著書に、『大学とは何か』『大学は何処へ』(岩波新書)、『文系学部廃止の衝撃』(集英社新書)、『大学と言う理念 絶望のその先へ』(東京大学出版会)等がある。吉見俊哉氏東京大学大学院情報学環教授

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