41リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022――ただ、そこが通学制の大学の悩みどころかもしれません。小中高の初等中等教育はどちらかといえば「誰も置いていかない」という教育を志向しており、立場が違うとはいえ、高等教育が厳密な出口管理で「一定以上の者だけ卒業させる」という方針を取ると、これまでの流れと相反する部分が出てきそうです。この2つの方向性を両立させる、というようなことは、現実問題、可能なのでしょうか。通信制大学で、入学者に対する卒業比率が高いところとはどのような現状にありますか。――国家資格取得を目指すような通信制大学で、TA等の支援体制が厚いところでは、卒業比率が80%や90%のところもあります。ただし、4年間で卒業できるわけではなく、8年や9年かかる学生もいて、通学制の大学を卒業するよりも何倍も大変ではあるかと思います。今お話に出たことが、まさに「出口管理を厳密にしつつ、広く学生を支援していく」ための一つの解ですよね。つまり、通学制の大学も「学生は基本4年間で卒業すべきものだ」という固定観念から抜け出すことです。そもそも、通学制の大学において学生の多様性がなかなか実現しないのは、日本の社会全体に画一的な「年齢主義」が根を張っているからです。年齢に応じてやるべきことが決まっていて、特に教育については小・中・高・大の6・3・3・4制のレールに乗っかることが重視され、そこから外れると多くの人が不安を感じてしまいます。直線的かつ同調的に人生を歩もうとする価値観が根強いために、大学についても「『入試』を経て『就活』をするまでの通過儀礼にすぎない」という感覚が強く、教育の中身にはあまり関心を持たれないのです。この年齢主義を脱するには、高等教育の「複線化」が不可欠だと私は思っています。そして現状でも、日本には6・3・3・4制の一直線上にはない、二つの回路が既に存在します。一つは、中学生から高校生を経由せずに高等教育に飛び込める高等専門学校。そしてもう一つが、様々な世代が柔軟に学んでいる通信制大学です。一般の通学制の大学も、今後はこうした直線的ではない回路を作っていくことが必要です。すなわち、多様な学生がそれぞれの進度に合わせて年数も含めて柔軟に学べ、なおかつ、学んだ後で各自の目的に合わせて多方面に飛び立てるよう、カリキュラムの複線化と、学生のキャリアパスの複線化を進めるのです。その点からしても、幅広い世代の学生が4年で卒業することもあれば、8年や9年かけて卒業することもあるという通信制大学のあり方は、一般の通学制の大学にとって参考になるはずです。(文/松井大助)吉見氏は「学生が学びの時間をどう営むか」という観点から科目編成を見直すことを提唱する。学生が自ら考えて双方向で学ぶには、事前・事後の学習も必要であり、週12~13科目も取る編成では、学習時間が1日24時間を超え、成り立たない。理想は、週の履修科目が現状より半減することだ。そのための一案としては、セメスター制(2学期制)からクオーター制(4学期制)に移行し、1期目は半分の教員の担当科目を集中的に行い、その間は残り半分の教員は研究に取り組み、次の期は互いの役割を交代し、これを繰り返すやり方が考えられるという(すると全体の科目数は今と同じでも、週の履修科目は半減し、教員には自由時間もできる)。クオーター制は、国際標準である9月入学とのギャップを埋める手立てになる可能性がある。双方向の授業と科目編成C O L U M N通学制の大学においても、様々な世代が柔軟に学ぶ通信制大学のように、年齢主義から脱却し、カリキュラムやキャリアパスの複線化を志向すべき。通信制大学は、なぜ学生の多様性が実現できるのか?第2特集
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