カレッジマネジメント231号
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43リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022がある。働きながら学ぶので就学期間も長くなりがちだ。つまり、冒頭に掲げた5つの理由は、制度創設時の時点で既に用意されていたようである。その制度が、その後、過去に進学の機会を得られないまま社会で活躍してきた中高年層や、キャリアチェンジや教養を求めた大卒層にとってもフィットした。それが、現在の年齢的な多様性の実現につながったといえるだろう。誰もが意欲さえあれば入学できる以上、卒業にふさわしいレベルに達しているかどうかは厳密に見ていく必要がある。実際、通信制大学の場合、通学制とは異なり、卒業までの到達は簡単なことではない。「通信制大学の方とお話ししていて『一般の通学制の大学では授業に出席していれば単位が得られるということもあるようですが、通信制の大学では一個一個の単位を <勝ち取っていく。>そういうイメージです』と伺ったことがあります。学生には、明確な学びの目的意識と、学習を自宅で自分で進めていくという自律性が求められます。学生のほうも、単位を取れればいいということではなく、しっかりと知識やスキルを身につけて卒業するということが目標です。学生のニーズを踏まえた大学運営の結果として、多くの通信制大学において厳格な単位認定、出口管理が行われているといえるのではないかと思います。通信制大学では卒業者のうち、最低在学年数を超過した者が6割近くに達しているというデータもあり、各大学では、そうした長期の在学を可能とする仕組みを整備したり、再入学等の配慮を行ったりするなどの工夫をしています」(大塚氏)通信制大学は学ぶ意欲のある人に広く門戸を開いており、入学後は一人ひとりがそれぞれのペースに合わせ、一つひとつ単位を勝ち取っていき、取得したら卒業できる…。「欧米の公立大学に近い面を含んでいる」(吉見俊哉『大学は何処へ』岩波新書、2021年、P205)といえよう。長期間在籍することを前提に考えると、学費の安さは必須の条件ともいえる。ではなぜ、通信制大学は学費を安く設定できるのか。「通信制だから学費を安く設定するような決まりがあるわけでは勿論ありませんが、通学制の場合と通信制大学の場合の設置基準の違いが影響していると考えています。通学制のほうでは認められていない印刷教材による授業やフルオンラインによる授業が可能なこともあり、教育の質を担保するために必要とされる教員数や校舎、校地の基準が、通学制と比べるとかなり緩やかになっています。(図4)。その結果、大学によって、学費を安くするという選択が可能になっていると考えられます」(大塚氏)通信制大学の特徴となる遠隔教育は、利用できるメディアを多様化させる形で進展してきた。制度創設時からの「印刷教材による授業」、1980年代に始まるテレビ・ラジオを利用した「放送授業」に加え、インターネット・通信技術単位は「勝ち取っていくもの」多様なメディアの活用1947年3月学校教育法制定(通信制大学制度の創設)1983年4月放送大学設置1981年10月大学通信教育設置基準制定、放送大学学園法制定1998年3月大学設置基準等訂正・メディアを利用した授業について大学設置基準等に規定(同時双方向型メディア授業の規定)・大学院に通信教育を行う修士課程を置くことが可能に2001年3月大学通信教育設置基準等訂正・メディアを利用した授業にインターネットを利用した授業を位置づけ(非同時双方向型メディア授業の規定)・卒業所要単位124単位全てをメディア授業で行うことが可能に2002年3月大学院設置基準等訂正・大学院に通信教育を行う博士課程を置くことが可能に2014年3月大学通信教育設置基準等訂正・卒業所要単位全てをメディア授業で行う通信制大学において、一定の要件を満たす場合に面積基準の規制を緩和(特区制度の本則化)図3 通信制大学に関する制度の変遷通信制大学は、なぜ学生の多様性が実現できるのか?第2特集

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