54リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022の場作りやデジタルを利用したアクティブラーニングの推進等、幅広く教育ナレッジを表彰している。ナレッジのオープン化による授業改善・改革サイクルをいかに迅速に回すかに拘り、今後はオンライン授業のデータ集約・分析に取り組んでいくという。研究DXでは、アナログな実験の多くがデジタルシミュレーションに代替されたことにより、より精緻な研究計画の立案が可能になる等、質向上に資する活用が出てきている。これまで述べてきた業務変革は大学運営DXとまとめられる。先に挙げた独自開発からパッケージ・クラウド利用促進は2020年より稼働したLMSの更新でひと段落しており、現在はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とAIや関連技術の組み合せによる業務の自動化を推進している。具体的には、生協とのデータ連携とAI勘定科目類推の連携による支払請求業務の効率化、経理証憑電子管理システムの稼働によるファイリング、電子契約システムを活用した学生アルバイト等の雇用条件通知の電子化等により、2018年からの3年で理論値ではあるものの10万時間を超える時間創出を実現した。実績としても経理処理における担当者あたりの生産性は1.5倍、総労働時間20%削減を実現している。このように、単にアナログを機能代替するだけではなく、時代に合わせたデジタルならではの価値創出を実現しているのがDXたる重要な点である。そこには担当部署との現場協働が欠かせない。「理論上の計画と現場で実現したい価値に乖離がある場合、そこをどうやって埋めるのか、丁寧なコミュニケーションを心がけています」と神馬氏は言う。業務改革によって「いかに業務が良くなるのか」をきちんと説明したうえで、パッケージ化によってどうしても発生する「できなくなること」が本来やるべき業務だったのか、そうであるならどのように再構築できるかを議論し続けている。「業務を一番良く知る現場の当事者意識が推進の肝」との言葉通り、現場視点で標準化を見渡し、過不足を補えるように現場のスキルアップや人材育成も進んでいる。理事会決定事項として降ろすだけでは実装に大きな課題を残すところ、視界を合わせる協働により現場発のアイデアも活かされ、教職員にとって「使い勝手の良い」かつ「今までより便利な」業務システムの構築を実現した。6年間でバックオフィスのデジタル化を進めてきたが、今後は学生・教職員のCX・EX向上を目標に、こうした改革をさらに拡大・検証していきたいという。2032年まで3年スパンで計画を立案していく予定だが、「大学を取り巻く環境の変化・デジタル技術の進展を見据えつつ、当初立てた3年の計画だけにあまり固執せず、フレキシブルに計画を見直しながらスピード感を持ってPDCAを回していきたい」と高橋氏は言う。早稲田の事例から学ぶべき点は多いが、特に「まずできることから」とシステム改善に着手するのではなく、次代に合うビジョンの策定を旗印に、その実現プロセスにデジタル化を位置づけるという設計が肝要であるように感じた。(文/鹿島 梓)図3 情報化重点施策(2021-2023)の概観ICT活用によるポストコロナ時代を見据えた大学諸活動(教育・研究・大学運営)のトランスフォーメーション創出・加速化学生、教職員、校友等がICTを安全に利用、効果が経験できるサポートが受けられる環境の提供ICT活用の基盤となるネットワーク・インフラを従来の延長線にないレベルで再構築情報化重点施策の3カ年を『デジタルトランスフォーメーション(DX)拡大期』と位置づけ、重点施策を展開プロセスの変革による効率化、手法を支える基盤の変革による新たな価値創造に必要なICT導入CX向上DX推進情報化重点施策の柱一体的に推進DX基盤強化EX向上Anytime, Anywhere Learning for EveryoneAnytime, Anywhere IT Services for ResearchSmart University教育DX研究DX大学運営DX視界を合わせる協働により現場の実装を推進する
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