69リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022また、8月に行ったアンケートからは、全国で自然災害が増えている今、東日本大震災を経験した岩手県に対して、地域の防災体制とリスクマネジメント体制の教育も含めた検討・構築についても要望があったという。さらに、農学と工学の連携によるスマート農業、医学と工学との連携による新しい医療機器を開発する意向連携、や食資源の精算・活用など、岩手県ならではの領域間の複合的な連携を通じた産業育成の推進にも期待がかかっている。こういった産業界の動きに応じて、関わる人材の育成ニーズも高まる。「県外から来た若者が県内に定着してくれれば一番良いわけですが、そのためには県内の企業に魅力を持ってもらわなければいけない。また若者の人口が減ったとしても、その学力を向上させる努力、つまり中学校・高等学校の教育水準を上げていく必要性がある。そこを担う教員については、例えば本学であれば教育学部で育成し、県内の中学・高校に輩出していきたいと考えています」。前述したように岩手県には自発的な産学連携・高等教育人材育成の組織を生み出し、10年以上にわたって実施してきた実績がある。短期的な成果も見えづらい取り組みにおいて、その運営組織を形骸化させることなく、持続発展させるために大切なこととは何だろうか。小川氏に聞くと「世代交代」だ、という回答が返ってきた。「組織が機能し続けるために大切なことは、『世代交代を順調にやれるかどうか』ということに尽きます。例えば60歳を超えた人の交流と、30代前半の人の交流のあり方は全く違う。ですから世代を次に渡していく仕組み作りが必要です。もしも世代交代ができないのなら、無理に継続させず、スクラップするのもひとつの方法だと思います。なくて困る組織であれば、また新しいものを作ればいいのです。組織を作る時はみんな一生懸命に取り組みますが、むしろ壊す時のほうが難しい。でも『自分が最後になりたくない』というような考えは捨てたほうがいい。結局、世代交代がうまくいっている組織は活発に取組を続けているし、できていないところは長くやっていても機能していないところが多いのではないでしょうか」(小川氏)。また、岩手県は、県知事と大学の学長、あるいは産業界・経済界の経営者のトップ同士がフラットに会話しながら、お互いに協力していこうという繋がりが非常に強いという。「人と人とが顔の見える関係で、お互いに意見交換が出来て県民全体の将来をみんなが一緒に考える。そういった心意気がここ岩手県にはあります。ある時、会見の席で、進学希望者収容率のデータに基づいて『岩手県の18歳の学生で大学を希望する学生数は岩手県にある大学の定員数よりも圧倒的に多いので、県外へ出て行くしかない』という話をしました。その会見の後、県知事から『なぜ定員数が足りないのか?』と聞かれました。なぜなら高校の場合は地元の高校生全員を県で吸収できますよね。それもあって、大学も同じようにお考えになっていたわけです。お互い当然だと思っているところが、そうでないことも結構ある。そういった話をトップ同士が直接できる関係性というのは大きいですね」。さらに、これから新しく組織を作るのであれば、最初は可能な限り自発的な形で進めたほうが良い、と小川氏。「自発的な組織は、それぞれの職責とは違うところで、利害関係がそんなに大きくないような友人関係のなかから始まるものです。そのためには、やはりまず顔を合わせることでしょう。コロナが収束したら飲み会をやるのも実は大切だと思いますよ」。こうして生まれ、育ってきた岩手県の産学官の取り組みは、いわてPFによって、より組織的に機能する組織へと昇華を遂げようとしている。「社会から求められる人材を育成するため、それぞれの大学が自分たちの思っている人材だけを育てていれば良いという時代ではなくなりました。このような時代の転換が起こっているからこそ、地域としてどのような高度人材を必要とするのか、を一緒に考える場が必要です。それが地域連携プラットフォームだと考えています。いわてPFもそういう位置づけとして機能させたい。華々しい成果を出すことを目指すのではなく、『ないと困る』ような組織にしたい、と私は思っています」。(文/木原昌子)仕組みの形骸化を防ぐために必要なのは「世代交代」
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