リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022「戦略」が大学の存続や発展を大きく左右する時代になってきた。2021年度の大学入試においては、コロナ禍の影響もあり志願者数・受験者数ともに前年度比12.2%と減少。入学者数は49万4213人と50万人を切り、入学定員充足率100%未満の大学は前年度184校(31.0%)から一気に277校(46.4%)にまで増加した。中央教育審議会が2018年11月に示したいわゆる「グランドデザイン答申」の2040年度18歳人口想定は88万人であったが、足元の出生数を見ると2019年86万5239人、2020年84万832人となり、2021年上半期は40万5029人と年ベースでの80万人割れも現実になりつつある。18歳人口の減少が経営を直撃し、存立基盤が揺らぐ事態に陥る大学が増加することが予想される。また、定員割れには到らないまでも、多くの大学にとって入学者の質の確保が大きな課題になってくる。さらに、国・地方の財政状況を考えると、公的資金の依存度の高い国公立大学では、教育研究機能を維持・向上させていくための経営上の工夫・努力がこれまでにも増して厳しく求められるだろう。大学がこのような状況を乗り切り、存続・発展を遂げるためには、何を目指し、いかなる道筋でそれを実現すべきかについて、明確なシナリオを持ち、それに沿って着実に歩を進める必要がある。それが戦略であり、戦略を創出する力や実行する能力が問われているのである。戦略について考える際に、多くの示唆を与えてくれるのは経営学であるが、企業戦略や競争戦略を扱う経営戦略論は比較的新しい分野であり、チャンドラーやアンゾフといった経営学者の代表的著作が出版されるのは1960年代になってからである。そして、現在に至るまで戦略とは何かについて共通する一つの定義がある訳ではなく、研究者によって様々な説明がなされている。その一つが以下の定義である。「戦略とは持続的競争優位性を達成するためのポジショニングを構築することである。つまり、どの業界でどのような製品・サービスを提供するか、そしてどのように資源を配分するかなどの選択をすることこそが戦略なのである。戦略の最終目標は、顧客に価値を提供することで、株主をはじめとするステークホルダーに対する価値を創造することである。」(コーネリエス•A•デ•クルイヴァー,ジョン•A•ピアースⅡ世(大柳正子訳)『戦略とは何か』東洋経済新報社,2004)また、沼上 幹 一橋大学教授はその著書(沼上 幹『経営戦72Innovating University Management大学を強くする95「大学経営改革」大学における戦略の創出と実行について考える想定を上回るスピードで進む18歳人口の減少戦略に関しては多様な捉え方や考え方がある吉武博通情報・システム研究機構監事 東京家政学院理事長
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