カレッジマネジメント231号
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73リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022戦略をどう捉えるかについては様々な考え方があること、戦略を創出し実行することは企業経営でも決して容易ではなく、持続的競争優位の確立に繋げることはさらに難しいこと等を踏まえた上で、企業と大学の目的、組織特性、内的・外的環境の違いなどを考慮しつつ、大学における戦略の創出と実行について検討していく必要がある。なお、戦略を考える上で押さえておくべき企業と大学の違いについては表1に整理している。UCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメントの記念講座教授のリチャード・P・ルメルトはその著書『良い戦略と悪い戦略』(村井章子訳,日本経済新聞社,2012)において、「良い戦略は、十分な根拠に立脚したしっかりとした基本構造を持っており、一貫した行動に直結する」と述べ、この基本構造を「カーネル(核)」と呼び、それは診断、基本方針、行動の3つの要素で構成されるとしている。そして、それぞれを以下のように説明している。(1)診断 - 状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。(2)基本方針 - 診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す。(3)行動 - ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するた略の思考法』 日本経済新聞出版社,2009)の中で、経営戦略に関する5つの考え方として以下を挙げている。(1)戦略計画:戦略とは、組織全体の目標に向かってそのメンバーの活動を整合化させるプラン(シナリオ)である。(2)創発:戦略は誰かが事前にトップダウンで決めるものではなく、現場のミドルたちの相互作用の結果として事後的に創発するものなのである。(3)ポジショニング:戦略とは特定の「立地」をとることである。(4)経営資源:戦略とは、価値があり、容易に模倣されない経営資源を見定めて、それを自社の競争力の源泉に位置づけ、超過利潤を獲得していくことである。(5)ゲーム:戦略の本質は、競争相手や取引先との駆け引きである。これらは企業経営を前提にした説明であり、全てが大学に当てはまる訳でない。また、企業経営において持続的競争優位を確立できるケースは少なく、近年その確率は極めて低くなりつつあると言われている。加えて、戦略や計画の策定が年中行事化する傾向が国内外を問わず多くの企業で見られるとの指摘もある。大学でも法人化以降の国公立大学において年中計画を作らされていると感じている関係者は少なくないだろう。中期計画策定が義務化された私立大学でもその傾向が強まることが危惧される。表1 戦略を考える上での企業と大学の違い十分な根拠に立脚した基本構造を持ち、一貫した行動に直結するのが良い戦略企 業大 学外部環境速い(近年さらに加速)変化の速度は比較的緩やか内部環境指導力や状況次第で速い変化が可能変化に対する抵抗が強い戦略立案に要する時間大学等よりは短期間での立案が可能時間がかかる場合が多い(合意形成等)戦略を行動に繋げる一定程度までは比較的容易企業と比べると難しい(特に教員組織)戦略実施の効果大学等よりは短期間で経営上の成果経営上の成果を得るまでに時間がかかる

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