カレッジマネジメント231号
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76リクルート カレッジマネジメント231 │ Jan. - Mar. 2022いかに重要かは既に見てきた通りである。IRが戦略の質を左右し、内部質保証が戦略の実行をより確かなものにする。三者はこのような関係にある。ここまでは大学全体の戦略を前提に話を進めてきたが、企業に全社戦略、事業戦略、機能別戦略等があるように、大学でも全学戦略、学部戦略、機能別戦略等が考えられる。学部の場合は学部長が戦略の立案と実行を主導することになり、教育、研究、国際、広報、人事、財務等の機能別戦略は担当する副学長や理事が主導することになるだろう。さらに小さな単位である学科や課の単位でもそれぞれに戦略は必要である。戦略と聞くと関心を惹きつけるために知恵を絞った語句や図が並ぶ書類を思い浮かべがちだが、これらは説明のための手段に過ぎない。問われているのは戦略の中身であり、それが構成員の心を動かし、行動に繋がることである。日本企業の99.7%は中小企業であり、その中には優れた戦略で成長し永続する会社も多い。戦略は書類ではなく、会社を存続させるために四六時中情報を集め、考え続けている経営者の頭の中にある。かつての日本の企業家たちも、GAFAに象徴されるプラットフォーム企業の創業者たちも同様だろう。戦略は、「思い」を持ち続け、情報や知恵を集め、自分の頭で考え続ける者からしか生まれない。そして、それに納得し共感する者が増え、行動することで、実行から成果につなげることができる。戦略を生み出すのも、それを実行するのも人間である。トップ、ミドル、スタッフを問わず、このような人材をどう育て、その層を厚くするかが、戦略の創出と実行にとって極めて重要である。守島基博学習院大学教授はその著書(守島基博『人材マネジメント入門』 日本経済新聞出版社,2004)の中で、「人材とは、企業の戦略達成に貢献し、さらに短期的な戦略達成だけではなく、長期的な企業の競争力を維持・強化していく経営資源」と述べ、人材マネジメントにおける長期的目標として、「戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上させる」ことを挙げている。経営戦略論は経営学において比較的新しい分野であると述べたが、戦略がもともとは軍事用語だったことから研究対象とすることに躊躇があったのではないかと説明されることもある。軍事用語としての戦略という場合、多くの人々の頭に浮かぶのは中国の古典『孫子』だろう。紀元前500年頃の春秋時代に孫武が著したとされる世界最古の兵法書は、2000年以上経った現在も多くの人々に読み継がれている。有事・平時を問わず組織を率いるための手掛かりを得たいと考える読者もいるだろうし、戦略そのものに興味を抱きながらページを捲る読者もいるだろう。戦略は人間の世界だけのものではなく、近年は生物学においても「生存戦略」といった概念が用いられるようになっている。(参考図書:「植物の軸と情報」特定領域研究班編『植物の生存戦略〜「じっとしているという知恵」に学ぶ』朝日新聞社,2007)過度な競争を避けたい心情はあるが、植物や動物が厳しい生存競争を生き抜くためにそれぞれの戦略を持ち、健気に生きているのと同様に、個人はより良く生き、組織は持続・発展を続けるための独自の戦略を持たなければならないのだろう。大学も戦略を創出し実行する能力が問われている。大学を強くする「大学経営改革」Innovating University Management戦略を生み出すのも人、実行するのも人個人にも組織にも独自の戦略が求められている

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