カレッジマネジメント232号
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103リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 20223章:新増設のマーケットトレンド最後に、新増設・改組のマーケットについて見ていきたい。図表7は、2000年以降の認可・届出件数と志願倍率の推移を示している。周知の通り、2004年の届出制導入により認可・届出件数は増加し、全体の8割を届出が占める。届出制は認可申請に比べて申請負荷が低いことから、学部・学科の新陳代謝を促進した一方で、昨今の大学設置分科会からは「準備不足や安易な申請が目立つ」といった指摘もある。2016年度開設分からは審査スケジュールが従来よりも前倒しになり、2018年度には専門職大学・短期大学制度も始まったが、その認可率の低さから厳格化モードが一層強まった。コロナ禍と入試改革による影響が同時に表面化した2021・2022年度は申請数も低水準であり、大きな改革を動かすには難局であったことが窺える。折れ線で示した志願倍率を見ると、大きく上昇する年は大規模校の新増設に伴うもので、下降する年も個別の理由があろうが、概ね5.0~10.0倍の幅で推移しており、受験生は新しい学部・学科を好意的に見ているようである。次に、人気のある分野について見ておきたい。図表8・9は、単独分野・複合分野それぞれにおいて、新増設の累計設置数(2008-2021)を多い順にランキングにしたものである。単独分野では医療系が上位3位を占める。長らく看護学が他を圧倒する設置数だったが、高齢化に伴う健康寿命への注目の高まりも背景に、ここ3年でリハビリテーション学が急増している。4位以下の学科系統では毎年の設置数が2桁に届く分野がないことからも、医療系の人気と追随する大学の多さが見て取れる。複合分野を見ると、1位教育学×保育・児童学、2位スポーツ学×健康科学、3位栄養・食物学×健康科学と、隣接分野での改組が目立つ。また、前述した高齢化を背景に多様化する健康科学、テクノロジーの進化に伴い人材ニーズが高い情報関連分野、ロボティクスやモビリティ等を包含するシステム・制御工学といったトレンド分野も散見される。こうした分野は今後も志願ニーズが高い状態が続くことが予想される。学部・学科トレンドデータ集である。この時期の特徴として、特にエンジニアリングの分野で、技術革新を受けての動きと見られる分野の多さが挙げられよう。上位10位の中で、電子工学・情報工学は4つ、電気工学・通信工学は3つの領域で複合していることからも、テクノロジーの進化に応じた学問領域に注目が集まっている様子が分かる。また、引き続き新増設が牽引していないことも注目だ。2015年以来の動きとして、既存分野における複合的な展開により志願者が大きく動いていると言える。こうした分野を持っていながら募集が不調な場合は、学科の学びが時代に応じた展開になっているか、広報は受験生の志向に応じてアップデートされているか等を確認する必要がありそうだ。図表6は、昨今の社会情勢を背景に設置検討が多い複合トレンドを「メガトレンド」としてピックアップしたグラフである。①データサイエンス、⑥グローバルのように、グラフの縦方向(志願者)の増加は大きいが横方向(定員)の増加が少ない領域は、設置状況に対して志願者数が多く集まっており、新規設置に伴って志願者が集まる可能性を有していると言える。ただし、近年の新増設状況では同じ分野でも志願倍率3倍~20倍程度と開きがあり、実際に集まるかどうかは個別事情によるところが大きい。また、コロナ禍の2年間で志願者推移には陰りが見られ、この状況がいつまで続くかは今のところ未知数だ。また、⑥グローバルは現状この系統の学部・学科を新たに設置するよりも、既存の学部・学科の教育内容をグローバルにしていく動きのほうが盛んであり、系統で切り取った志願者トレンドだけで状況を考察することは難しい。

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