16リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022VUCAの時代と言われて久しい。その中にあって、社会に求められる人材像も変化している。多摩大学大学院教授・徳岡晃一郎氏は、多様化・複雑化する社会課題に対応するには「π(パイ)型人材」が必要だと提唱する。その要件とは、育成のヒントとはー。伺った。先行き不透明な時代、人口減少、日本企業の国際競争力の低下と、課題は山積している。そうした弱みを克服し、日本が世界で価値を発揮するには、“4S”が必要だと徳岡氏は語る。4Sとは、1シナリオ(Scenario)思考…未来の変化を予測し、その時どうするか想定する2スピード(Speed)…後塵を拝するデジタル化の加速や論理思考、リーダーシップの強化3サイエンス(Science)…しがらみや迷信に囚われず、正しい情報から思考して、答えを導き出す4セキュリティ(Security)…国際社会で急増するリスクに対応するための経済安全保障やルールメイクの能力の頭文字をとった徳岡氏による造語だ。「4Sを兼ね備え、複雑化する社会課題をイノベーションで解決するには、一つの専門分野だけでは難しい。狭い専門分野を飛び越え、様々な知を融合した全体知が必要です。その象徴が、複数の専門分野(縦の2本足)と、それを結びつける幅広い教養(頭の横棒)を持つπ型人材なのです」。そのためにビジネスパーソンは、π型の2本足を作る意識を持って、日々の仕事を意味づけることが重要だという。「ただ目の前の仕事に取り組むのではなく、『この仕事で自分は何を学んだか?』とキャリアを意味づけ、経験を知恵にすることで専門性が高まります。その専門性を軸に、関心を隣接領域に広げて学んでいけば、2本目以降の足(専門分野)ができていく。専門性は一朝一夕には積み上がらないので、日々の自覚的な棚卸しと、好奇心を持って学び続けることが大切です」。 価値観も変化している。成長そのものだけではなく、地球環境や人権といった、世界的な社会課題に配慮した取り組みが企業に問われる時代だ。「目の前の問題解決にとどまらない、『10年後の社会のために何をすべきか?』という高い視座での問題設定は、異なる専門性を教養によってつなげてこそ可能になります」。同時に、そうした問題意識こそがπ型人材を進化させる。「『何のために働くか?』という理念を持つと、学ぶ意欲が湧いてくるはず。理念の実現に向けて学ぶにつれ、理念はより明確になり、さらに学ぶ。この理念と学びの往復が、変化の時代にキャリアを助ける知識創造なのです」。翻って、人生100年時代。労働期間は長期化し、60歳での定年がキャリアのゴールだった時代には必要なかったキャリア観が求められている。人材育成のトレンドπ型人材が示すキャリアの方向性Interviewインタビュー異なる専門性を教養でつなぐπ型人材100年時代のキャリアを助ける変身資産徳岡晃一郎氏多摩大学大学院教授、株式会社ライフシフトCEO
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