カレッジマネジメント232号
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21リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022もいる。発達障がいの困難さに向き合っている子、特定の分野に特異な才能を持つ子、両親が外国人で日本語指導が必要な子、どうしても教室に行くことができない子…多様な子ども達の学びを支えるに当たっては、このような認知の特性や関心の違いを前提として、全ての子どもに共通している「知りたいという欲求」を刺激し、個別に異なるその子の学びの扉が開くように働きかけることが必要であり、だからこそ2019年から子ども達に一人一台の情報端末を整備するGIGAスクール構想が進められている。この学びの転換には、文部科学省をはじめ政府全体で取り組む必要がある。内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の教育・人材ワーキンググループが、今後5年程度を見通し府省の縦割りを越えた議論を重ね、2022年3月に政策パッケージをまとめることとなっているゆえんである(本稿の図は同WGの資料)。学習指導要領の各教科等の内容にコードが付され、情報端末が整備されたことにより、子ども達の学びが時間的にも空間的にも多様化するなかで、それまでの教育内容の習得が不十分だった子どもはAI教材などを活用してその確実な習得に向かって自分の学びを調整することが可能になるし、特異な才能を持つ子どもについては教育課程の特例を設けて一足早く大学や研究機関で専門的な学びを行うことができるなど教室の風景は変わってくる(図1)。教室の風景が変わると、学校の構造も変容する。今までは、いわば「垂直分業」で、子どもに関することを全部学校のなかで完結して担ってきた。しかし、学校がこれらの幅広い機能を全部自前で担うことは不可能であり、社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)のなかでレイヤー構造の「水平分業」へ転換することが求められている(図2)。その際注意すべきは、他者と同じことができることが評価される時代の慣性に基づき、大人が採点しやすい知識再生型のテストが変わらないままで情報端末を活用した教育の個別化が進展すれば、子ども達がアルゴリズムやAIが指示する通り他律的にドリル学習を反復することになるという点である。しかし、先が見通せない時代を子ども達が切り拓くうえで大事なのは、子どもたちが他者と対話や協働を重ねながら、自分の認知の特性や関心に応じて自分で自分の学びを調整できることにほかならない。だからこそ、発達障がいやICT、サイエンス等の専門家が教員免許を容易に取得できるようにして教員集団の多様化を図りつつ、生徒が直面する困難さに向き合って学ぼうとする心に火を灯し、「学び合い」や「教え合い」でクラス全体の知識の理解の質を高めたり、討論や対話、協働を引き出したりすることが求められている。実際に、情報端末を活用した個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実は、山形県の天童市立天童中部小学校、埼玉県戸田市の小・中学校、長野県坂城高校や明蓬館高校等、全国の自治体や学校で取り組まれている。このような内発的な取り組みを全ての学校において引き出すためには制度的な仕組みが必要で、CSTIにおいては、学習指導要領の構造や教員免許制度の転換といった学校制度の根本の見直しのほか、CBT(コンピュータベースドテスト)の導入、探究的な学びの成果であるレポートや小論文、討論や実演等に対する「パフォーマンス評価」の科学的知見を活かした確立等について、具体的な方策が議論されている。このような初等中等教育の変容が進むなかで、数教科の知識再生型問題中心の入試、文理分断な学部・学科構成、学生の力を伸ばすためのデザインなきカリキュラムは、大学の規模が大きいから、首都圏・大都市圏にあるから、伝統があるからと言って生き残れるだろうか。文部科学省記者会見室で、大学入学共通テストにおける記述式問題導入は時期尚早と訴えた横浜市の高校生菊田隆一郎さんは、SNSで「裏でいろいろ大人が動いているに違いない」、「AO入試のための実績づくりだ」といった批判を受けたが、「覚悟はしていたし、いろんな意見が出ることを望んで行動を起こした」と述べている。その菊田さんはわが国の大学を選ばず、アメリカの大学に進学した。岸田内閣のデジタル臨時行政調査会は、2021年末に閣議決定した「デジタル原則」に基づき、全ての規制や制度を見直すこととしている。デジタル化で大学制度も大きく変容することが見込まれるなか、菊田さんのような自立した若者に選ばれる大学になることが求められている。教育DXの先にある学びの姿大学経営に問われるもの01特集正解がない時代の「学びのデザイン」

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