カレッジマネジメント232号
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22リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022経済産業省の「未来の教室」事業を耳にしたことがある読者の方々は多いであろう。しかし、その本質を「デジタルによる教育の文脈」と思われてはいないだろうか。だが、その実は学びをもっと自由化・見える化・多様化して、「誰もがそれぞれ満足できる学校」をつくる動きであり、そのための制約を外すデジタル活用である点を強調したい。経産省「未来の教室」とEdTech研究会は、2017~2019年度に審議を行い、2018年6月に第一次提言を、翌2019年6月に第二次提言を公表した。第一次提言では「50センチ革命」「越境」「試行錯誤」といったキーワードを、第二次提言ではそれらを進化させた「学びのSTEAM化」「学びの自立化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」といった観点を「未来の教室」構築のための3つの柱として掲げている(図表1)。本稿では、経産省からの委託事業として「未来の教室」事業を推進するボストン コンサルティング グループ(BCG)で事業を担当するマネージング・ディレクター&パートナーの折茂美保氏に、第二次提言を軸に、当該事業が目指すもの、高等教育がつなぐべき視点についてお話を伺った。─「未来の教室」事業の背景にある課題意識とは何でしょうか。これまでの日本の学びは、高度経済成長期に必要な人材を育成する優れたモデルでした。すなわち、知の再生産を担う人材、情報処理に優れた人材の育成です。しかし、今日的な社会のあり方にはフィットしません。昨今の教育問題の本質は、時代の変化に合う教育のあり方が抜本的に見直されず、既存の延長線上でしか描かれていないことです。日本において教育を司るのは文部科学省ですが、国の産業を司る経産省にとっても、産業を支える人材育成は重要テーマです。多くの変化を前に新しいことに挑戦するのに、これまでの延長線上で捉えた既存の縦割りではなく、横断・連携して多様な目を入れた事業のあり方を模索したい。いかに非連続に発想を変えていくのかという観点で、この事業が展開している経緯があります。─では、第二次提言で提起された「未来の教室」構築に向けた3つの柱について教えてください。1点目の「学びのSTEAM化」とは具体的にはどのような営みを指すのでしょうか。STEAMは米中などでも国策になっている概念です。世界が求める人材像として、多様性の中でイノベーション創出できるICT人材には共通した能力があり、STEAMはそのベースを培う教育。科学技術への理解を深めるSTEM(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Mathematics:数学)教育に、社会創造に欠かせないデザイン思考や幅広い教養、つまりリベラルアーツ(Arts)を編み込んだ学びです。学びのSTEAM化とは、子ども一人ひとり異なる「ワクワク」を起点に、「知る」と「創る」が循環する学びを指します「未来の教室」構想が目指すものInterviewインタビュー既存の延長線上ではない「時代に合う教育のあり方」を模索する事業子ども一人ひとりの「ワクワク」を起点に「知る」と「創る」を循環させるSTEAM教育東京大学経済学部卒業。同大学大学院学際情報学府修士。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。BCG社会貢献グループの日本リーダーを務め、パブリックセクターなどのコンサルティングを担当。経済産業省「未来の教室」実証事業にも携わる。折茂美保氏ボストン コンサルティング グループ(BCG) マネージング・ディレクター&パートナー

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