カレッジマネジメント232号
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23リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022(図表2)。幼児の頃は、誰しも「これ何だろう」から始まる好奇心を軸に日々学んでいますが、学校の授業は、子どもそれぞれの気持ちに応えるというより、クラス全員に対して「教える」側の都合で進んでいくので、それが面白いと思える子ども以外にとっては概ね面白くない。教える側の都合で「与えられた学び」にならないために大切なのは、いかに「ワクワク」を喚起できるか。知ること=教科学習を知識として取り込もうとしても定着しませんが、自分がワクワクする課題について考えを深めたり、解決策を講じたりするのに必要なインプットと捉えると、不思議と頭に入る。そうやって、身の回り半径50センチにあるものから少しずつ課題を見つけ、改善していくことで、教科に閉じない探究的な学びと、必要な知識習得のために教科学習に向かうスタンスが循環するようになる。知るために探究し、価値を創るために知る。その繰り返しで、学習は個人の学びに昇華されていきます。そういった意味で、「未来の教室」では、誰もが「それぞれ」満足できる学校という言い方にこだわりました。─最初は半径50センチで学びの起点となるワクワクを得たとして、そこから高等教育で挑むべき社会課題解決に至るにはかなり距離があるように思います。この隔たりをどのように捉えたらよいのでしょうか。50センチ圏内の生活課題について、問題発見→課題設定→解決設計→成果検証という探究サイクルを回す経験を積むことが第一歩だとして、そこから社会課題に昇華するには、メンターやファシリテーターの存在が重要でしょう。自分がワクワクする分野の先達や本物に触れ、自分との距離を感じたり、ロールモデルを見いだしたり、自分の意見をぶつけてフィードバックをもらう壁打ちの経験を重ねていくことで、自分だけの狭い視野に閉じず、より高次の課題へのチャレンジや深い洞察が可能となる。そうした開かれたコミュニケーションの場をどう設計できるかが問われていると思います。教師の役割も、「自分が一番多くの知識を持っている前提で教える」立場から、「社会や有識者に生徒をつなぐハブ・ファシリテーター」としての役割、そして「各生徒の個性を最もよく知るアドバイザー・サポーター」に変革していく必要があります。─次に、「学びの自立化・個別最適化」について教えてください。「学びの自立化・個別最適化」とは、子ども達一人ひとりの個性や特徴、興味関心や学習の到達度も異なることを前提に、各自にとって最適で自律的な学習機会を提供していくことです。3つの柱内容乗り越えるべき課題必要なアクション学びのSTEAM化一人ひとり違うワクワクを核に、「知る」と「創る」が循環する、文理融合の学びSTEAM学習プログラム・授業編成モデル・評価手法の不足インターネット上に「STEAM ライブラリー」、地域に「STEAM学習センター」を構築学校現場は知識のインプットで手一杯で、探究・PBLを行う余裕がないこと知識はEdTechで学んで効率的に獲得し、探究・PBLに没頭する時間を捻出他者との協働の基礎となる情動対処やコミュニケーションが難しい子どもが少なくないこと幼少期から学齢期にかけて、基礎的なライフスキルや思考法を育成学びの自立化・個別最適化一人ひとり違う認知特性や学習到達度等をもとに、学び方を選べる学びに一律・一斉・一方向型授業の神話知識の習得は、一律・一斉・一方向授業から「EdTechによる自学自習と学び合い」へと重心を移行一人ひとりの学習者の個性(認知特性や理解度や興味関心)への細やかな対応の不足幼児期から「個別学習計画」を策定し、蓄積した「学習ログ」をもとに修正し続けるサイクルを構築授業時数・学年・居場所の制約(履修主義・学年制・標準授業時数、狭い「対面」の考え方)多様な学び方の保障(到達度主義の導入、個別学習計画の認定、ネット・リアル融合の学び方の導入)新しい学習基盤づくり学習者中心、デジタル・ファースト、社会とシームレスな学校へEdTechを活用するには、学校ICTインフラがあまりに貧弱なことICT環境の整備(1人1台パソコン・高速大容量通信・クラウド接続の実現、調達改革・BYOD・寄付)教師も子ども達も手一杯で、創造性を発揮する余裕がないこと学校BPR(業務構造の抜本的改革)の試行・普及、部活動に縛られない放課後の充実教師が学び続け、外部人材と協働する環境の不足教師自身がチェンジ・メイカーとして、学校外の人材と学び、協働し続ける環境の整備図表1 「未来の教室」ビジョン 3つの柱「ワクワク」に応える学びのサイクルを自ら設計する01特集正解がない時代の「学びのデザイン」※経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会 第二次提言より編集部作成

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