カレッジマネジメント232号
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25リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022セットをアップデートする機会を提供する必要もあります。また、学校の中だけでは学びのSTEAM化は実現できず、地域や社会とどうつながって、子ども達のワクワクに寄り添えるか、場の設計も不可欠です。まずはツールとしてのデジタルとの接点である端末が3名に1台水準では、個別最適化は実現できません。自治体によって整備状況が異なることで地域格差が生まれないようにもしないといけません。そのため、官主導で一斉にインフラ整備を展開したのがGIGAスクール構想です。しかし、端末はあくまでツールであり、どう使うのかの設計こそが本丸です。そこを構想するべき現場の先生方が本来の仕事に集中できるようにBPRを進め、子ども達を中心に置いた教育設計を可能にしたいというのが、「新しい学習基盤づくり」の考えです。─未だアナログが中心の学校現場において、いざ展開して見えてきた課題はありますか。端末を配布するだけでは当然意味がありません。豊富に揃うEdTechコンテンツにスムーズにアクセスできること、見たいものがすぐに見られること、その先にある本物との出会いがコーディネートされること。そうしたシームレスな接続こそが未来の教室の価値です。しかし、2020年コロナ禍の一斉休校以降、本来予定していた内容への切り替えがなかなか難しくなっているといった課題もあります。また、全てがオンラインでよいわけではなく、オンラインとオフラインの効果的な組み合せを模索していく必要があります。デジタル利活用に関するセキュリティやリテラシー、モラルといった観点の教育も不足しているのが実情です。─「未来の教室」で学んだ子ども達を、高等教育機関はどのように受け止めるべきでしょうか。実証事業に参加している生徒達を見ていると、受動的な勉強から、主体的で自分軸の学びに変容していく様子に驚かされます。今は一部の変化に見えても、新課程の展開とともにこうした動きは一般化してきます。高等教育は、個別最適化にセットアップ済の生徒をどう伸ばすのかを大前提に、ターゲットに合うように教育研究を適宜組み直す必要があるでしょう。大学が「講義を受けるだけ」の場なのであればオンラインで事足りますし、オンラインであれば、国内外の他大学の魅力的な講義にいくらでもアクセスできる時代です。生徒達は大学という場に何を求めるのか。今こそ、学校とは、大学とはどういう意味や役割があるのかを問い直す好機でもあります。生徒達は、偏差値のような入学時点の基準や就職実績等の機能面だけではなく、「本当に自分が学びたいことを学べる大学なのか」、あるいは「学びに関連した刺激的な出会いや連携協働の場を創出している大学なのか」といった観点で大学に場の価値を求めるようになるでしょう。「本学の教育はこういう特徴があり、企業や社会連携においてこういう価値を創出していて、学びたい人にはこういう場を提供できる」と、教育研究に関する独自性をアピールできるかが問われています。ワクワクを軸にした子ども達に選ばれる大学になれるかどうか。選ばれる判断軸が変わることをもっと危機感を持って認識する必要があると思います。─カスタマーの価値基準が変わる可能性を見越して、大学の軸足を顧みるチャンスでもありますね。リカレントやリスキリングの場としての大学はどうでしょうか。高校までワクワクを軸に学んできた生徒を受け入れ、さらに伸ばすだけでなく、大学で4年間学ぶだけでは太刀打ちできない時代に、「学び続けたい」意欲、何を学ぶのかを自分で決められる学生をどれだけ多く世の中に送り出していけるのかは、長い目で見れば大学の底力になると思っています。それこそ、多様な人材が集う学校という場の価値です。制約が多い義務教育よりも、高等教育こそもっと自由に学び、そしてシームレスに社会とつながることが可能な場ではないでしょうか。初等中等教育の変化と、それに伴う生徒の判断軸の変化を受け止め、ワクワクの探究活動を研究活動の水準に引き上げることや、さらに社会人を含めた多様な人材が自由に集い、創造的な価値を生み出す場と機会の設計。それらが社会に近い高等教育ならではの価値創出になるのではと思います。(インタビュー・文/鹿島 梓)新課程へのシフトで起こる学びと価値基準のパラダイムシフト01特集正解がない時代の「学びのデザイン」

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