カレッジマネジメント232号
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35リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022基準は現代とは齟齬が多いという点でしょうか」と大蔵氏は言う。一般的に高専は科を細かく分けて設置する前提で教員数等の体制を定めているが、神山高専が目指すのは横断・融合視点を持つ技術者の育成であり、学科は1つ。この辺りの前提条件の違いが、求められる教員数や体制等のギャップに直結しているようだ。一方で、目指す教育内容は高専機構にも助言を仰いで作り上げたという。社会変化を踏まえた人材育成のため、新しい教育作りの先行モデルとして期待が高まっている。学校が開校する神山町についても言及しておきたい。神山町は「奇跡の田舎」と称され、人口5000名程度の山間部ながら地方創生のロールモデルとして有名だ。NPO法人グリーンバレーがその中心で、今では多くの地域が展開する「アーティスト・イン・レジデンス」、道路の一定区間をボランティアが清掃する「アドプト・プログラム」、地域に必要な人材を地域が逆指名する移住スタイルの「ワーク・イン・レジデンス」、強力な通信網を背景に企業の働き方改革に資する物件を提供する「サテライトオフィス」等、町に関する多様な活動を展開している。理事長の大南氏は「創造的過疎」を提唱する。過疎地における人口減少は不可避の現象として受け入れたうえで、持続可能な地域を作るために人口構成を積極的に変化させていく概念だ。創造的な人材が集まりやすい場を作ることで、多様な人材が地域を活性化させていく。こうした場の象徴のような学校だが、神山高専は「地方創生」を前面には押し出していない。町として「第2期神山町創生戦略(2021-2025)」を掲げ、将来世代を呼び込む必要性をうたうなかで誕生予定の学校ではあるが、大蔵氏は「学校としての独立性を担保する必要性」を強調する。「地域連携ありきで動くと、教育の形が全てそちらに寄ってしまいかねない。あくまで人材育成のあり方をど真ん中に据えたい。むしろ、周囲を大いに巻き込む主体として学校を創りたいのです」。神山高専の入学定員は40名、教職員と全校生が揃えば250名。人口5000名の町で若者中心の集団が250名増えるインパクトは大きい。関係人口や人流の増加、全寮制の学校で必要になる食糧流通等、存在するだけで地域経済に大きな影響を与えるのは必至だ。これまでの日常とは異なる新しい動きが町民に最初にもたらすのは違和感かもしれない。「町にとって大きな変化になるわけですから、まずは町のあり方に馴染むことと、学校として完結できることを優先したい」と大蔵氏は言う。最後に、学校にかける思いを聞いた。「全寮制で育む高専だからこそ、徹底的にプロフェッショナルを育てることができるのは大きな価値。本校ではそれに加えて、社会変化を推進する力を身につけ、社会への価値創出にこだわった教育を行っていきます。教育経験がないよそ者だからこそ描けるビジョンがあり、15歳という若い世代を対象にする高専だからこそできることがある。課題が多い過疎地域だからこそ、価値設計が生きる。日本を牽引する人財を、この地から多く生み出していきたいです」。大蔵氏の言葉は力強い。(文/鹿島 梓)学校の独立性を堅持することで地域社会にも貢献する過疎地域から未来の牽引人財を多く輩出する図 カリキュラム概念図(神山サークル)※神山まるごと高専は2023年4月開学に向けて認可申請中のため、内容は変更の可能性があります。数字に強くなる隣人と生きる力コトを起こす力人と一緒につくる力言葉に強くなるプログラミングに強くなる絵に強くなるモノをつくる力社会と関わる力「起業家精神」「デザイン」「テクノロジー」+01特集正解がない時代の「学びのデザイン」

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