カレッジマネジメント232号
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リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022まず、金沢工業大学(KIT)がデータサイエンス(DS)教育でMDASHプログラム認定を目指したのは何故なのか。大学事務局長の谷 正史氏は、「本学は従前より、社会の要請に応じた情報化を行ってきました」と言う。古くはWindows3.1の時代から入学時PC購入を必須にし、一般的なオフィスツールのみならず、C言語等を必修にしていた時期もあったという。その理由は、「ICTを道具として使えることは社会での必須能力になるから」だという。そして、遅からず「読み書き算盤」に情報技術が位置づけられる今般、次世代のスキルセットとして全学でAI・DS教育に取り組む必要があると考えた。「社会で活躍できる、自ら考え行動する技術者を育成することにこそ本学の軸足がある。だから、社会基盤としての情報技術が変革されるならば、率先して取り組む必要があるのです」と谷氏は言う。同時に、こうした付加価値を最大化することこそが他大との差別化になるという生存戦略でもある。「KITで学んだことが役立ったという学生をたくさん輩出したい。常に見据えるのは顧客(学生)満足度の最大化です」。2020年年初には学長から「学生一人ひとりの学びに応じた教育への転換」と「時間と場所の制約を超えた学びの場の創出」をEd Tech( Education Technology )を活用し、強く推進する旨が学内で共有された。教育付加価値日本一を標榜し、これまでeシラバスやAI活用で学生の主体的学修と自己成長を支援してきたKITだからこその内容と言えよう(参考:小誌209号掲載)。あくまで学生を主語にして、DXが提供する新たな価値を見出し、達成する目標を一段高めることに意味がある。DXはそれ自体が目的なのではなく、教育付加価値を高めるための手段なのだ。こうした動きの背景には張り巡らした「社会へのアンテナ」がある。特に大きいのは「KIT人材開発セミナー」の存在だ。これは学生の就職支援として25年間実施しているセミナーで、東京・大阪・名古屋・金沢・富山で毎年約1500社の企業と直接対面できる場である。ここに集う企業から社会の現状を汲み取り、ニーズを捉えているという。「最近よく聞くのは、専門エキスパートも大事だが、組織として事業をしていく以上、自分の専門をベースに他分野とも柔軟に共創し合える分野横断型のコミュニケーション能力やコラボレーション能力、そして変化の激しい時代に主体的に学び続け、他者と協働できる高い能力を持つ技術者が多く必要だという話です。本学は主専攻の専門以外にも学ぶ機会を増やし、学生自らと教職員がその成果を可視化するなど、学生の成長機会を整備することに拘っています」と谷氏は言う。KITの特色の1つであるプロジェクトデザイン(PD)教育は、「与えられたテーマに挑む」「知識の必要性を知る」「何が解決すべき課題かを明確にする」「学科混成チームで協働する」と段階を追って学修できるように設計されており、自らの専門性を立てながらも他分野に興味が波及しやすいようにデザインされている。こうした実際の課題解決において今やICTが必須であることも学んでいくという。では、今回の採択プログラムを見ていこう。図1に示す通り、基本設計はモデルカリキュラムの「導入」「基礎」「心60大学事務局長谷 正史 氏共創教育推進室課長西川紀子 氏教育付加価値日本一の大学を目指すロードマップに追加されたDX自ら考え行動する技術者の育成を目指して次世代エンジニアに必要な素養を必修化し、その後の選択肢まで描く事例report_03 金沢工業大学KIT数理データサイエンス教育プログラムデータサイエンス(DS)教育の最前線による新たな価値創出

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