カレッジマネジメント232号
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65リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022ングしているほか、当該分野の各界の専門家で構成するAIMDアドバイザリーボードを設置し、展開する事業に外部の目を入れている。こうした体制のもと、リテラシーのみならず、エキスパートの専門家・リーダー育成も含め、レベルに応じた学修プログラムを体系的に構築しつつあるという。続いて、eラーニング教材「AIMD for Future」をAIベンチャー企業と共同開発した点に注目したい。文科省からはこの点を「特色ある取り組み」と高く評価された。モデルカリキュラムの導入・基礎・心得を分かりやすく説明する内容で、AIMDの基礎科目「情報基礎A」「情報基礎B」で2020年度から使用されている。2021年度からはプログラミングが不要なAI分析ツールを用いた実習機能も提供されている。「学術的な内容から入るのではなく、世界トップ企業の時価総額の比較からDS領域のポテンシャルを知る等、初学者でもとっつきやすいアプローチになっている」と早川氏は内容を評価する。大学のアカデミックな観点とは異なる実社会寄りの視点という点でも、外部の目は貴重なのだ。先に挙げたAIMDアドバイザリー委員会の存在といい、こうした共同開発といい、東北大は学外の力を借りることをどのように位置づけているのだろうか。この問いに、青木氏は「学内で全てを賄うにはマンパワーの問題が大きいというのが現実的にはある」と前置きしたうえで、「MDASHだけでなく、今後のAIMD事業のスケーラビリティを考えて外部連携を進めておくことには意味がある」と話す。そもそも研究大学として、研究の社会実装を見据えた動きは自然な流れとも言える。AIMDは学ぶ内容が社会実装前提のため社会連携は合理的だが、それ以外にも授業や教材を他大学に提供したり、社会人リカレントに活用したりすることも志向しており、こうした動きも包括できる体制を考えれば連携は道理なのである。多様な連携の座組の中でキュレーターとして機能するのが東北大というわけだ。既に東北創成国立大学アライアンスでの数理・DS・AI教育に関する連携開始、MOOCコース「社会の中のAI~人工知能の技術と人間社会の未来展望~」を2020年より公開し、民間企業を含む4700名以上の受講実績がある等、スケールアップの動きは進んでいる。特徴ある科目の開発も進む。例えば、「数理・AI・データ科学─データ生成・活用の現場に立会う─」科目は、データが生成・観測・計算され、実社会の課題が解かれていく研究の最前線を取材・体験するもの。「AIをめぐる人間と社会の過去・現在・未来」科目は、AIの歴史や仕組みのみならず、AIがどのようにヒトの知性や意識や社会のありように影響を及ぼすかについて考察するもので、企業実務家も講師として参画する。なお、リテラシーのみならず、エキスパート教育に関しても動いている。2017年より始まったデータ科学国際共同大学院だ。東北大大学院6研究科による学際的共同プロジェクトで、情報科学研究科をハブにして異分野横断を束ねて海外機関とも連携し、AIMD領域におけるグローバルかつ学際的な研究リーダーの育成を目指す。毎年20名ほどが在籍し、各専門性におけるAI・DSによる価値創出を設計し、企業から提供される数テラバイトのビッグデータの処理に取り組み、協働しながら具体的なソリューションを創出するものだ。博士課程では海外研究機関に半年以上滞在しての共同研究を必須とし、共著論文を作成する等、専門家としてふさわしい実績を積めるよう設計されている。レベルごとの階段を上手に作りながら、学外連携も含め、研究大学らしい付加価値を付けているのが東北大の独自性と言えよう。東北大のAIMD教育は、リテラシーから応用、国際共同やリカレントまで、大変幅広い。こうした状況について、「専門性の壁をどう乗り越えて多様性に対応するのか。価値創出のために積極的に横断・越境するメンタリティが研究者には必要です」と中尾氏は言う。研究に軸足を置くからこそ、その領域で社会実装を前提にしたグローバルリーダーを育成することも、社会人のリスキリングに取り組むことも、それを学部教育にブレイクダウンすることもできる。そして、やって初めて明らかになることもたくさんある。「だからこそ、最初から形を決めてやろうとせず、前例に囚われず、プロトタイプで走りながら常にアジャイルにチューニングしていくことが必要です。本学が目指すグローバルリーダー教育とは、そういうものです」。中尾氏の言葉は力強い。(文/鹿島 梓)研究大学のDNAたる社会実装・外部連携価値創出のために積極的に横断・越境する研究者を育成する

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