カレッジマネジメント232号
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7リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022─予測不可能と言われる主な要因に「社会の複雑化」と「グローバル化」があります。複雑化していく社会に対して、あるいはグローバル化して自分とは違う人と一緒に働くことが当たり前になる社会において、どんなスキルが必要となるのでしょうか。「社会の複雑化」と「グローバル化」による社会変化は、実は根っこはひとつではないかと考えています。それは価値を測る“モノサシ”が増えるということ。グローバル化は文化や言語、人も含め様々な考え方が交差し、複雑になる。これまで物事をある決まったモノサシで見ていたけれど、複雑なものを見るためにはモノサシも複数になっていくということです。その時に、これまでの固定されたモノサシの中で戦うのか、新しいモノサシそのものを探しにいくのかという選択もあるでしょう。固定されたモノサシの中だけで戦ってきたこれまでの社会とは、その点が大きくゲームチェンジしているということです。こういったゲームチェンジの時には、ゲームが変わっているということに気づいていないことが起こりがちです。たとえると、野球選手がいきなりサッカーフィールドに放り込まれ、ルールが変わったことに気づかずに手を使ってしまうような感じです。ゲームが変わっているのに、手を使ってはいけないというルールに気づいていない、という状況ですね。─どのような点に「ルールが変わったことに気づいていない」と感じることがありますか?例えば日本の教育では、学生全員を同じように等しく底上げしよう、という考え方があると思いますが、多様性がうたわれてモノサシが増えている時にその考え方はおかしいのではないでしょうか。例えば、コロナでオンライン授業を進める際にタブレットやPCを使うことになるわけですが、「全員を底上げしよう」という発想が強すぎると、1人でもデバイスが使えない人がいたら、それをやめようという話になります。平常時においてはその考え方で良いのですが、非常時に様々な模索をしている時には1人でも使える人がいるならオンラインをやってみようという発想が求められてきます。また、全ての人を底上げしようとする発想のなかでは、減点主義が強くなり、1点、2点取れないものがあるならやめてしまおうという発想になりがちです。つまり合格点がすごく高い。もちろん自動車等の製造業で、クオリティーを求めて98点でも満足しないというこだわりは、ある意味とてもいいことです。ですが、正解が見えない時代に100点を目指す考え方のままでは、「90点しか取れないならやらないほうがいい」となってしまう。実は行動力と合格点はほぼ反比例します。行動力がある人は自分のなかの合格点が低い人なのです。ダメでもいいからやってみる。合格点20点の人はすぐに動けるのですが、合格点80点の人は、自分のなかで合格点が取れるまでトレーニングしてしまう。試験に臨む場合もしっかり準備する。つまり、成績の良い人は準備することが成功体験として刷り込まれている。自分に足りないことに気づき、トレーニングをきちんとできること自体は良いことです。しかし正解が見えない時代は、そもそも予習や準備ができないのです。むしろ予習や準備がない状態でどこまでできるかということが大切になってくる。しかし、合格点が高い人はどうしても予習や準備を優先して、行動が遅くなる。これもルールが変わっていないことに気づいていない状況のひとつですね。─どうすればゲームチェンジによってルールが変わっていることに気づくことができるのでしょうか。変化に気づくためによく言われるのは「常識を疑え」という言葉です。しかし、そもそも常識を疑っていない人に、「これからは常識を疑え」と言っても難しいでしょう。メタのレベルで抽象的に言っても、人はどうすればいいのか分からない。そこでお勧めしたいのが「違いに怒りそうになった時に立ち止まる」ことです。人というのはたいていの場合、相手の価値観が自分とは明らかに違っている時や、理解不能でなおかつ自分が正しいと思っている時に怒ります。し01特集正解がない時代の「学びのデザイン」価値を測るモノサシが多様化する時代自分のルールと相手のルールの違いにまず気づくことから

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