カレッジマネジメント232号
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8リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022かし先ほどの野球選手とサッカー選手の話にたとえてみると、相手が手を使わずにゲームをしようとすれば、野球選手は「なぜ手を使わないんだ」と怒っているのかもしれません。「なぜ手を使わないんだ」と思った時に、立ち止まって「もしかするとこのゲームは手を使えないルールなのではないか」「間違っているのは自分のほうかもしれない」と考えてみる。そうすると、「ちょっと待てよ」と考え始めるわけです。そうやって考えて状況を理解しようとすると、まず相手に対しての怒りが収まり、相手の話を理解しようとするので自分も変わる。違う価値観や意見を理解しようとすることは、自分の中のモノサシを増やすということにもつながります。つまりモノサシを探しに行こうとする人は怒らないし、新しいモノサシを探すきっかけがひとつ見つかって得をしたと思う人です。ですが、モノサシが固定している人は、自分と意見が違うことに対してすぐ怒る。逆に言えば、自分のモノサシが固定していることに気づくのが「怒る瞬間」なんです。だから怒りそうになった時に立ち止まってみる。すると相手との関係も良くなります。自分のモノサシも増える。怒らないことにメリットがあれば、自分のなかで定着させることができると思うんですよ。私自身もこのような思考回路を起動するといろんな意味で良い方向にいくと実感し、心がけています。─では、ルールチェンジに気づいた後はどうすればいいのでしょうか。細谷さんはご著書の中で、頭の良さには、知識が豊富な「物知り」、対人感性が高い「機転が利く」、思考能力が高い「地頭がいい」の3種類があり、そのなかでも知識はAIに取って代わられ、3つ目の思考力である「地頭力」を鍛えることがこれからの時代に必要な力であると言われています(図1・表1参照)。 こうしたスキルセットのために、大学ではどのようなことができるでしょうか。先ほどの合格点の話にも通じますが、合格点が低い状態で何とかする、という試行錯誤の場を多く創ることだと思います。英語教育で、日本人は「文法は得意だが喋るのが不得意」と言われる理由の一つは、「下手な英語」を喋る場が少ないということがあります。下手でも英語を喋ることで上達するのに、下手な状態で外に出すのがカッコ悪いという合格点の高い思想です。全てにおいて下手でもいいから外に出す、試行錯誤するという場がたくさんあったほうがいい。大学ができることの1つは恐らく、こうした失敗について安心して許容された場やコミュニティーを創ることで、そこで失敗をとにかく繰り返していくことが大切です。図1 地頭力の構成要素知的好奇心(原動力)直観力(攻め)論理思考力(守り)3つの思考力ベース仮説思考力(結論から考える)フレームワーク思考力(全体から考える)抽象化思考力(単純に考える)「結論から」「全体から」「単純に」考えるベースに知的好奇心、論理思考力、直観力があったうえで、仮説思考力、フレームワーク思考力、抽象化思考力を組み合わせて考えるスキルを駆使することで地頭力を鍛えることができる。合格点を下げ、失敗の経験値を増やすことで地頭力を鍛える

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