カレッジマネジメント232号
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リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022学生が所属する教育組織と教員が所属する教員組織を分けるいわゆる「教教分離」を導入する大学が国立大学を中心に増えつつある。本誌でも2015年に国立教育政策研究所「大学の組織運営改革と教職員の在り方に関する研究」の中間報告を受けて、「変革のドライブとなる組織運営改革」という特集を組み、金沢大学、札幌大学、高知大学の3事例を紹介している(本誌192/May-Jun.2015)。その後、同研究の最終報告書が2016年3月に公表された。それによると、教教分離型の改組を全学で実施しているのは、国立39.1%、公立5.7%、私立3.5%、一部の部局で実施しているのは、国立17.4%、公立2.9%、私立3.8%となっている。また、検討していないと回答した割合は国立15.9%に対して、公立78.6%、私立78.8%と、関心や取り組みが国立大学に偏っていることがわかる。この調査後も、国立大学では教教分離型の改組が続いており、直近では岡山大学が2021年4月1日に新たに「学術研究院」を設置、研究所・附属病院等を除く教員を所属させ、学部・研究科を、教員が所属する教員組織と学生が所属する教育組織に分離する体制を構築している。その上で、2023年度には、既存の大学院や専門分野の枠組みを超えた、多様で柔軟な教育プログラムの実施を目指した大学院の改革を行う予定だという。教教分離型の改組が国立大学でさらに広がるのか、また公立大学や私立大学においても今後関心が高まり、導入を目指す大学が増えていくのかについて現時点で見通すことは難しい。しかしながら、教教分離型の改組は、従来の学部・学科制に内在する構造的問題の解決と多様性・柔軟性を確保した教育研究体制の構築という二つの側面を有しており、この二つは設置形態を超えて大学組織の根幹に関わる課題でもある。実施の是非は別にして、教教分離を掘り下げて検討することで、教育研究組織の在り方を考えるうえで多くの示唆を得られる可能性がある。それではなぜ関心や導入が国立大学に偏っているのであろうか。主たる理由として考えられるのは次のとおりである。まず、国立大学は、長く国の組織の一部であり、法人化後も国からの運営費交付金に依存する部分が大きく、減少しつつあるとはいえ、幹部職員を中心に国との人事交流が続くため、国の政策に最も敏感に反応する傾向にあるという点である。加えて、2004年の法人化以降、中期目標の付与、中期計画の認可、それに基づく評価、予算配分等を通して、常に外からの強い改革圧力を受け続けているという実態がある。公立や私立に比べると大学院の占めるウェートが大きく、大学院において既存の学問分野を超えた学際的な組織の編成等を行おうとした場合、教員組織を分離していた方が、柔82Innovating University Management大学を強くする96「大学経営改革」「教教分離」型改組を通して教育研究組織の在り方について考える教教分離への関心や導入は国立と公立・私立の間で大きな開きがある国立大学における導入の背景に改革への強い圧力と人件費抑制がある吉武博通情報・システム研究機構監事 東京家政学院理事長

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