カレッジマネジメント232号
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83リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022そこでは、教員は学問の研究領域に応じて設置された26の「学系」のいずれかに所属し、学部段階の学生の教育を行う組織としての学群・学類、大学院段階の学生に対する教育を行う組織としての修士課程研究科・博士課程研究科において、他の領域の教員と協力しあって教育を行う体制が構築された。しかしながら、その後この仕組みを導入する大学は現れず、筑波大学自体も大学院重点化政策に沿って、大学院研究科を部局とする体制に移行。2004年の法人化を契機に教員の主たる所属も学系から各研究科に移ることになる。そして、2011年4月、新たな教員組織「系」を設置して再び教育組織と教員組織を分離する体制に移行する。26を数えた学系に対して、系は11と大きく括られた。さらに、2020年4月には、それまでの8研究科85専攻を3学術院6研究群に再編。6つの研究群に合計56の学位プログラムを編成する新たな教育システムを導入している。学系制度が、学部・学科制や講座制に内在する構造的問題の解決に主眼を置いて導入されたものであるならば、系制度とそれに続く学術院・研究群制度は、多様性・柔軟性を確保した教育研究体制を目指したものと理解することができる。改革を先導する大学として設置された筑波大学が国の政策に沿うように組織改革を繰り返してきたことをどう評価するか。政策と大学の関係、教育研究体制の在り方を考えるうえで、改めて検証する必要がある。1971年の四六答申より後、答申による教育組織と研究組織の分離に関する直接的な言及は見られなくなり、教育に関しては「プログラム」概念、教員組織については「各大学の責任による自由な設計」が重視されるようになる。2005年1月28日の中教審答申「我が国の高等教育の将来像」では、「現在、大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」との考えが示されている。また、教員組織について、「大学設置基準の講座制や学科目制に関す軟性を確保し易いという面もある。さらに、人件費抑制や学長裁量による人材の戦略的配置と親和性の高い仕組みだったことも背景にあると考えられる。運営費交付金の縮減を受けて、多くの国立大学で退職・転出教員の後任補充を一定期間凍結する措置が講じられてきた。また、前述の計画・評価を通して学長主導による戦略的な資源配分が求められてきた。学部・学科を超えて専門の近い教員を一つの組織にまとめたり、教員組織を大括り化したりすることで、人的資源の効果的活用を図るという面があったことは確かだろう。教育組織と教員組織の分離は、教育組織と研究組織の分離として説明されることもある。教育組織から分離した教員組織を研究組織と呼ぶだけならば、両者を同一のものと考えることができるが、研究を目的とする組織の編成という明確な意図がある場合、厳密には両者を区別して論じるべきであろう。ただ、説明が複雑になることを避けるため、本稿では特段の必要性がない限り、両者を区別せずに、答申や文献の記述に従って述べていくこととする。「教育組織と研究組織の機能的な分離」を明確に打ち出したのは、1971年6月の中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」(四六答申)である。同答申は、学部・学科が、学生の教育上の組織であると同時に教員の研究上の組織であり、教員の研究活動を中心に組織が細分化し、独立する傾向が強かったとしたうえで、そのために教員相互の連携協力が不完全となり、教育課程の適切な編成とその効果的な実施について総合的な力を発揮することが困難であったと指摘。「教育上と研究上の組織を区別することによって、それぞれの組織の望ましい人員構成と適切な予算配分などが確保され合理的な運営が容易になるであろう」と述べている。この考え方に沿って、1973年10月に「開かれた大学」「教育と研究の新しい仕組み」「新しい大学自治」を特色とする新構想大学として設置されたのが筑波大学である。柔軟な教育プログラムの編成や人員配置の効率化に関心や重心が移る四六答申が打ち出した教育組織と研究組織の機能的な分離

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