カレッジマネジメント232号
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9リクルート カレッジマネジメント232 │ Apr. - Jun. 2022地頭力を鍛える方法のひとつに「フェルミ推定」があります。正確な答えが出しにくい問いを推定ロジックによって短時間で求めるものです。コンサル会社やIT大手企業の入社試験でも導入されていることで有名です。例えば、「日本の道路を全部つなげたら何kmになるか」について、3分で推理して答えを導きます。このフェルミ推定は試行錯誤してプロトタイプ(試作)を作る練習で、正しいファイナルアンサーを出すことよりも、「とにかく自分はこうやって考えてこう答えを出した」とプロセスを構築する練習です。日本人はとかく模範解答を求めがちですが、これだけの問いに3分で迫ろうとするのに、検索したり人に聞いたりせず、とにかく自分の頭でとりあえず考えてみるという思考スイッチを入れることが大事です。誰かが唯一絶対の解を持っているわけではない。正解がないということは不正解もないことを意味するので、ハードルを下げてとにかくやってみようという練習になります。このプロトタイプを作る練習は地頭力を鍛えるうえで、非常に重要です。そういった試行錯誤の場をどんどん創っていくと、合格点が自動的に下がって、どんどん失敗できるようになります。─合格点を下げるという発想自体も新しいモノサシですね。先ほどの話にも出ましたが、100点、90点、80点を合格点にしてしまうと、70点取るならやらないほうがいいという発想になります。合格点を下げるというのは、0点より10点のほうがいいという志向にするということです。フェルミ推定はビジネス研修でも行うのですが、「日本の道路を全部つなげたら何kmになるか」という問いに、「3分間では答えが出ません」「全く分かりません」という人が出てきます。ですが、とにかく何か出さなければいけない練習ですと伝えます。3分間でとにかく白紙はなし。そうは言っても全く分かりませんという人には、白紙よりマシな答えですと言って、私が代わりに回答用紙に「1km以上」と書いたらどう思いますかと問いかけます。1㎞以上は間違ってないですから。でもここから先が重要で、1km以上と書くと、解答用紙の本人がそんな答えは恥ずかしいと訂正したくなるはずなのです。手がかりは何でもよいのです。例えば、マラソンは40km走ります。箱根駅伝は東京箱根間を大体半日走る。マラソン選手が2時間で40km走る人達だから、時速は大体20km。半日5時間として東京箱根で100㎞ぐらいかなと。ということは日本全部を東京箱根でやってみるとどう見ても1000㎞以上ある。道路1本だとしてもです。こんな風にやっていくと、1㎞って書いた瞬間に訂正したくなりますね。周りもどんどん突っ込んでくる。プロトタイプとはそれ自体の良し悪しよりも、出した後にいかに叩き台になれるかが重要なのです。周りも、出来仮説思考力フレームワーク思考力抽象化思考力一言で言うと…結論から考える全体から考える単純に考えるメリット最終目的まで効率的に到達する思い込みを排除し、①コミュニケーションの誤解の最小化、②ゼロベース思考を加速する応用範囲を広げ、「一を聞いて十を知る」プロセス①仮説を立てる②情報で検証する③仮説を修正する(以下繰り返し)①全体を俯瞰する②「切り口」を選択する③分類する④因数分解する⑤再俯瞰してボトルネックを見つける①抽象化する②モデルを解く③具体化するキーワード・ベクトルの逆転(逆算)・少ない情報で仮説を立てる・前提条件を決める・「タイムボックス」アプローチ・絶対座標と相対座標(FOR)・ズームイン(全体→部分)の視点移動・適切な切り口(軸)の設定、もれなくダブりなく(MECE)・具体⇔抽象の往復・モデル化・枝葉の切捨て・アナロジー(類推)表1 地頭力を構成する3つの思考力図1・表1の詳細は細谷 巧氏著『地頭力を鍛える』、『まんがでわかる地頭力を鍛える』を参照フェルミ推定に見るプロトタイピングの大切さ01特集正解がない時代の「学びのデザイン」

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